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□まつりのよるに。
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こんな所で何をしているんだろう――。
集う人々の喧騒とスピーカーから流れる掠れた祭り囃子の音楽を遠く感じながら、一護は鈍い頭の片隅で冷静な自らの声を聞く。
古い神社の境内で行われている、毎年恒例の夏祭り。
その最中、社の奥に広がる林の暗がりで、どうして自分は。
「っ‥‥やめ‥‥‥、くろ、さき‥‥!」
――どうして、喘ぐ彼の素肌を暴いて、より啼かせようとしているのか。
「今やめて、コレどうすんだよ?」
背後から抱き締めた細い身体の耳朶に意図して低い声音の囁きを吹き込みながら、一護は前に回した右手で彼の中心のものをやんわりと握りこむ。
途端にビクリと跳ねる身体に満足げに口の端を持ち上げた一護は、抱き締める片腕に力を込めてなおも右手の中の熱を弄った。
「や、あッ‥‥ハっ」
「いしだ――‥‥」
杉の大木に縋りつき与えられる快感から漏れる声を必死に殺そうと戦慄く喉元を肩越しに見る。
着崩れた浴衣の襟から覗く首筋に頬を寄せればそこはしっとりと汗ばみ、身頃から差し入れた左手がまさぐる平らな胸と同じに熱く脈打っていた。
「気持ちイイか」
「馬、鹿‥‥ッ!!」
「訊かなくてもわかるだろ、って?」
「さいて、だ‥‥あッ」
息も絶え絶えに恨み言を宣う面は伏せられて、艶やかな黒髪が横顔を隠していた。けれど、その表情は見なくてもわかる。知っている。
きつく眉間に皺を寄せて悔しそうに唇を噛み締めて。固く閉じられた眼尻には涙を溜めて、名を呼べば、うっすら開いた瞳で睨むように見上げてくる――。
「‥‥こっち向けよ、石田」
思い返した視線を感じたくなって、暗闇にも赤く染まっているのがわかる耳朶へ唇を寄せ囁いた。
けれど彼は頭を垂れたまま首を横に振る。
「なぁ。俺の顔見てイけって」
「い、やだっ‥‥!」
涙声の、頑なな拒絶。
‥‥つい、苛虐心をそそられた。
「っあ、何‥‥!!」
木の肌に添えられていた彼の腕を素早く引いて身体を反転させ、幹にその背を押さえ付ける。唐突さに驚きの声を上げる唇を強引に塞いで、差し入れた舌で口内を犯した。
もがく身体も呻く声も無理矢理押さえ込み、再び寄せた手で今度は容赦なく彼を絶頂へと導く。
「んッ――!!」
手の中の彼の限界が近い事を感じて、一護は絡めた舌を解き額を突き合わせて再び望みを唇に乗せる。
「目ぇ開けろよ、‥‥雨竜」
そして最低な俺をその眼差しで射殺して。
――そう、願っていたのに。
「‥‥くろ、さき‥‥」
薄く開かれた目蓋から向けられた眼差しは熱に潤んで縋るような瞳をして、切なく掠れた声が甘く名を呼んだ。
「――いし、」
「も‥‥やだ、はやく」
息を飲んで見つめた視線の先で、喘ぐ唇がか細く告げる。
“――はやくイかせて”
「ッ‥‥‥!」
「あ、あああぁ!!」
望まれたままに性急に手の中の熱を扱き上げ、耳元で高く啼く声に目の眩む思いを味わわされながら、一護は吐き出された白濁をその手のひらに受け留めた――。