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□注文の多い浦原商店
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月明かりしか光りのない暗闇の森を、血まみれの満身創痍で歩く、死覇装の俺と白装束の石田。

「くそ、いッてぇ‥‥」
「わかったから‥‥!しっかり歩けよ、黒崎!」

全身の痛みについ蹲りそうになる俺を、肩を貸してくれている石田が叱咤する。

「もっと、死にそうな怪我、散々してきた、くせに、‥‥情けない声、出すな、馬鹿っ」

そういうお前だってしんどそうじゃねーかよ。
半ば引き摺られるように歩く俺を支える石田の白い衣裳も、あちこちが赤く血で染まっていて。
なぁこれもしかして結構ヤバいのか?
意識も朦朧としてきた。
こんな真っ暗闇の山奥で、人家の明かりが見えやがる。
幻覚か。いよいよ末期かな。

「――いや、幻覚じゃない、黒崎」
「‥‥あ?」

思ってた事が口に出てたらしい。
見ると石田は驚いた顔で俺と同じ方を見ていた。

「なんで‥‥‥こんな所に電気通ってない筈だろう?」

いやツッコミ所そこじゃねえだろオマエ。
と、突っ込みたかったけど、俺はもうホントに限界だった。口を利く気力もねぇ。
俺は呆然と立ち尽くす石田の、血に汚れた服の端を引っ張って注意を引き、無言で明かりの点る人家を指差した。それで意味は伝わる。
 
石田は驚いたような声で、でもとか何とか言ったようだったが、結局再び俺を引き摺って歩き出した。俺の指差した方向へだ。
限界なのは、崩れ落ちかけてる俺をほとんど担いでる石田も同じ筈なんだ。

とにかく一刻も早く休みたい。その一心で足を動かした。
そうして見えた明かりに近付き、その家を目の前にして。
‥‥俺も石田も、しばし惚けて突っ立った。

「‥‥おい黒崎」
「‥‥訊くな」
「なんでここに、浦原商店があるんだ‥‥?」
「だから、訊くな‥‥」

そんな事俺が訊きてぇ。
空座町にあるはずの見慣れた浦原商店の一戸建てが、そっくりそのまま目の前にあった。
こんな人里離れた山奥の、真っ暗闇の森の中。
なんだって浦原商店が?

「何かの罠なんじゃないのか‥‥?」

石田が訝しげに呟いた。
だけどそれはどうだろうと思う。
つーか誰が何のためにこんな手の込んだ罠張るんだよ?浦原か?
‥‥まぁ何考えてんのかわかんねぇからなアイツは。絶対無いとは言い切れねぇ。
――けどあの人なら最低限、敵じゃない。

「石田‥‥」
「なんだ?」
「とにかく、入るぞ」
 
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