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□酔郷メランコリ
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「なぁ、石田」
「‥‥なに」
「前っから訊きたかったんだけどな‥‥」
「だから‥‥何を」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥黒崎?」
「‥‥‥何だっけ?」
「‥‥‥‥‥‥」

オレンジ頭の死神を、力一杯蹴り飛ばした。



酔郷メランコリ 





そもそも黒崎が酒なんか持ち込んでくるのがいけなかったんだ、と思う。
親子喧嘩の挙句、夜中人の家に押しかけて来るのもどうかと思うが、自棄酒なら一人でやってくれ。

「宿泊代だろ、奢りなんだから有り難く飲みやがれ」
「恩着せがましいな。頼んでないしはっきり言って迷惑千万なんだけど」
「‥‥お前ホンット冷てーな?」

なに拗ねた顔してるんだ君は。
おまけに、素直じゃないとか付き合い悪いとかそんなに俺が嫌いかだとか、大きなお世話な上に見当違いも甚しい事をぼやきながらも、コンビニ袋から次々と酒類を取り出し並べる手を止めない黒崎のおかげで、気付けばすっかり飲み会のごとき状況がテーブルの上に出来上がってしまった。

「よし!飲め石田」
「きみ人の話聞いてるのか‥‥?」

未成年の自覚は無いのだろうか。無いんだな。
だけど生憎、僕にはあるんだ。
 
「結構だよ。そんなに飲みたければ家に帰って飲めばいいだろ」

そうあしらってやれば、黒崎はムッとした様子で眉間の皺を深くした。
だけどこの男は質の悪い事に、挑発の言葉を思い付いたらしい。

「あー、お前酔うと人が変わるタイプか」
「――は?」
「俺の前で醜態晒したらどうしようとか思ってんの?」
「‥‥誰がだ」

聞き捨てならない。
それじゃまるで僕が醜態を晒すと決まってるみたいじゃないか。そんな事あるわけがない。
――舐める程度しか飲んだ事はないけど。
 
「いいよ、そこまで言うなら飲んでやろうじゃないか。後悔するなよ黒崎一護!」
「おっし、そーこなくっちゃな!」

嬉々として膝を打ち笑う黒崎に、一瞬しまったと思ったものの。

もう後には退けない。


――そして後悔する事になったのは、僕というわけだ‥‥。



 
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