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□学生生活に於ける特定対象への各考察
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「なぁによーぅ、泣く子も黙る黒崎一護が道ならぬ恋に悩んででもいるとかー?」
たった今思い付いた言葉を、軽い調子で投げてみた。
本気で思ってたわけじゃなくて、まさかねーって笑ってお終いにしてやろうとしての、軽口のつもりだったんだけど。
しかし黒崎一護のリアクションは、あたしの予想を大きく覆してくれた。
「ッ‥‥ば、何言っ‥‥!?ンなわけねぇだろ何で俺が‥‥っ!!?」
「‥‥‥‥‥‥」
「あ、あー‥‥別に、なんでも‥‥単なる興味だ興味‥‥」
「‥‥‥ヘーぇ‥‥」
顔真っ赤にしてあからさまに取り乱して、それで通ると本気で思ってんのアンタ。
「まぁ‥‥あれだ、ほどほどに頑張れ。ほどほどにな」
わざとらしく咳払いなんかして言ったって、目が泳いでんのよ。
挙句おぼつかない足取りで教室を出て行く挙動不審な後ろ姿を見送って、
あたしはにんまりと笑った。
「‥‥‥‥ふぅーん?なるほどねー‥‥?」
やだわ、ちょっと面白いじゃないの。
俄かには信じられないけれど、あの黒崎一護が、どうやら恋をしてるらしい。
しかも、一般的に恋愛対象としてフツーじゃない相手に。
あの感じじゃ片想いね、自覚したばっかりってとこかしら。
相手にされなくて、めげちゃうような状況で。
恋に臆病になるなんて、案外繊細なとこもあるってわけだ。
一体相手は誰なんだろうと、考えるけれど答えは出ない。黒崎の交遊関係なんて今までキョーミ無かったし。
――そう、今までは。
「けっこーソソるじゃない?」
さっきの泡食った顔した黒崎を思い返して、あたしは密かにほくそ笑む。Sっ気が刺激されるわぁ、何あの赤面っぷり?
とことんつついてからかって、あの面白い反応をもっと見たい!みたいな気持ちが胸に湧く。
だけど同じだけ、野暮はしたくないとも思うのよね。
人の恋路を邪魔したいわけじゃない。
むしろ頑張って欲しいと思う。それは心から。
一筋縄じゃいかない恋を知る、同志としてはさ。
仕方ないからせいぜい心の中で応援するに止めとくか。
ま、成り行きを見守ってみるのも一興、てね。