◆clap log◆

□一雨SS
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『こたつ』


「石田、お茶おかわり」
雨竜が手洗いから戻ると、空になった湯呑みを差し出して一護が言う。
「‥‥僕が立つの待ち構えてたな?」
「たまたまだろ」
「だいぶ前から空だったじゃないか」
「今飲みたくなった」
嘘だ。単に炬燵から出たくないだけだろ。
そう喉まで出かかったが、言い合っている間に済ませてしまった方が早いと気付いて雨竜は湯呑みを受け取った。
「君、今日来てから一度も炬燵から出てないぞ」
「なんか落ち着いちまうよなー炬燵」
あえて棘を含ませて告げても、言われた側は素知らぬ顔で首を回す。後ろ手を付いてのけ反って、欠伸までする緩みっぷりだ。
「まったりするな。早く終わらせろよ宿題」
へいへいと気のない返事をする一護にこめかみをひくつかせて睨み付けても効き目はない。余計に腹が立った。
一護のお茶を出して、ついでだからと夕食の下拵えを始める為に、雨竜は台所に立つ。
しばらくしてやけに静かな背後が気になり振り返ると、炬燵にいるはずの一護の姿が見えなくなっていた。
まさか、と近寄れば案の定。炬燵の陰で、横になって穏やかな寝息を立てるオレンジ頭が目に入った。
雨竜はがっくりと肩を落とす。
「どんだけ寛ぎきってるんだ君は‥‥」
一護に食べさせる為の食事の支度をしてる最中に寝こけるとは何事かと思う。
いっそ踏み付けてやろうかと思った。だが。
眠る一護の顔が、あまりにも無防備で、穏やかで、安らいでいて。
毒気を抜かれるとはこの事だ。
「‥‥‥寝不足なら、そう言えよ」
ふと苦笑を漏らして、雨竜は炬燵布団を一護の肩まで引き上げる。
仕方ない。炬燵が温かいから。
「少しだけだからな」
食事の支度が終わるまでなら見逃してやるよ。
それから雨竜は、普段よりもゆっくりと、時間をかけて丁寧に、二人分の夕食を作り始めた。

二人炬燵に向かい合い、遅めの食事にありつくまでは、あと一時間。


 
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