◆gift◆

□Andante Lovestory
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「嫌だったのか」
「‥‥そ、れは」
「俺が、嫌いか?」
「――そうじゃない」

目を瞠り、そうじゃないと繰り返す雨竜をなおも見つめて、じゃあ何だと一護は問うた。

「キ、キス‥‥なんか、したら――」
「‥‥したら、何だよ」
「‥‥‥‥‥‥‥もう、普通の関係に戻れなくなる、だろ」
「‥‥‥は?」

目の前で、今にも泣き出しそうな切羽詰まった表情でか細く告げた雨竜に対して、一護はぽかんと間の抜けた顔をしてしまう。
――今更何だ、という話だ。

「‥‥ちょっと待て。戻りたいのか、お前?だったら何で付き合う‥‥」
「僕がじゃない。君の事だよ」

ますますわからない。

「‥‥何で俺が戻りたいなんて思うんだよ。告ったのは俺だろ」
「好きだなんて、友達でも言うじゃないか」
「は?言わねぇよ」
「君は茶渡君や小島君や浅野君が好きじゃないのか?」
「――意味が違うだろそれは」
「抱きつくのだって、浅野君はよくやってるし」
「あれはもっとちげぇ!つか何が言いてぇんだお前!!」

いっそはぐらかすような事を言い出す雨竜に苛々と声を荒げると、眼鏡の奥の双眸が辛そうに歪み一護を見た。
その瞳に虚を突かれ、一護が黙って見つめ返すと、
 
「――だけど、キスなんて、普通はしない、だろう?」

君は本当にそれでいいのか、と雨竜は言った。

「‥‥君はもっと普通の‥‥女の子と付き合う方が、いいに決まってる。道を正すなら、まだ間に合うよ」
「‥‥石田、お前――」

雨竜の真剣さを受け止めて一護は息を飲み、彼の上腕を掴む両手に力を込めた。
見返す雨竜の瞳を神妙に見つめながら、

「‥‥‥‥バカだろ?」

――と、告げた。

「‥‥‥‥‥は?」

たっぷり十秒の沈黙ののちに返った雨竜の反応は、不可解と顔に書いての呟きだった。
 
「今、なん、て?」
「だから、お前バカ?っつったんだよ。どういう思考回路してんだてめーは」
「な、何が馬鹿だ、僕は真剣に、」
「真剣だから余計バカだってんだよ。お前ホントにわかってねぇのか!」
 
この期に及んで何が普通か。道を正せか。
赤い顔をして散々躊躇った上で付き合いを了承しておいて、それが普通以上を望む事だと知らなかったとは言わせない。

「俺は他の女でも誰でもなくて、お前が良かったんだよ。何回言わせりゃ信じんだ?」
 
結局雨竜は、一護からもたらされた好意を受け入れはしたものの、土壇場になって畏れを抱いているに過ぎないのだ。
恋人としての一護を手に入れる決定打を、怖がって避けている。
想いは間違いなくあるのに、そこから目を逸らして。



バカにも程があると呆れ果てていっそ笑い、一護は困惑げな表情で見つめ返す雨竜の肩へと両手を乗せた。
 
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