◆gift◆

□Andante Lovestory
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本当は、教えられなくても解ける内容だった。
宿題を教えて欲しいなんて、ただの口実だ。
確実に二人きりになれるこの場所へ来る為の、適当な理由。
‥‥一緒に居たいが為の言い訳だと、雨竜は気付いていないのだろうか?


「終わったか?」

雨竜が二杯目のコーヒーをテーブルに置きながら尋ねたタイミングで、一護はノートを閉じた。

「おう。どーもご指導ありがとうございマシタ。あとコーヒーも、サンキュな」
「うん。じゃあ飲んだら帰れよ」

口に含んだコーヒーを、思わず吹き出しそうになる。

「――かっ‥‥帰れっておま、メシは!?」
「‥‥食べてく気か?」

素で目を丸くする雨竜に、一護はヒクリと顔を引きつらせた。

「あ、当たり前だろ、材料代出したの誰だと思ってんだよ」
「家庭教師代かなと‥‥違うのか?」
「違ェよ!つかどんだけ高くつくんだお前!!」
 
浮かれていた気分が一気に盛り下がる。
あまりに意外そうな顔をされるので、あれ俺変なこと言ってるか?と、うっかり悩みかけるが、購入した食材は二人分あった筈なのだ。それで一護の分が考慮に無かったというのは、やはり雨竜がおかしいだろう。
天然か、いやもしかしたらわざとなのかと恨みがましく見据えれば、雨竜は気圧されたようにたじろいで、だけどと口ごもりながら言った。

「妹さんが夕食用意してるんじゃないのか、君のうちは」
「スーパーで買物してた時にもう断ってある。当然食わして貰えると思ってたんでな」
「だったらハッキリそう言えよ」
「‥‥普通買い物付き合って金出したら、自分の分も含めてだろ‥‥?」

眉をひそめて、そうなのか、と呟く雨竜に、一護は軽く泣きたくなった。
――これは天然だ。
宿題が口実だとも、恐らく思ってもいない。
歓待してもらえているとはまるっきりの勘違いだったというわけだ。

(ホントに付き合ってんだよな、俺ら‥‥?)

半ば押し切るような形でスタートさせた交際だが、本気で有り得ないと思うなら即座に断れば良いものを、赤い顔をして答えを濁す雨竜はおそらく感情を許容できずにいるだけなのだと、一護は踏んでいた。
だから、始まりはそれでも構わないと、思っていたのだが――。

雨竜は気まずげに目を逸らして、それなら夕飯の支度をと言いながら腰を上げかける。
その腕を、一護は軽く掴んで止めた。

「な、何‥‥?」
「ちょっと待て。とりあえず座れお前」

同じ位置に腰を下ろそうとする雨竜の腕をなおも引き寄せ、自分の正面に座らせる。
戸惑った表情の雨竜を真っ直ぐに見つめて、一護は意を決して口を開いた。

「お前、俺が付き合ってくれって言ったの、オッケーしたよな?」

単刀直入な一護の物言いに、雨竜は目を瞠る。

「した、よな?」
「し‥‥したけど、それが」
「お前んち来て、お前のメシ食わせてもらえんの、俺がすげぇ楽しみにしてたっての、わかんねぇか」
「‥‥‥‥」
 
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