小説

□声
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…おかしい。
今日は我を呼ぶウルサイ声がきこえない。
 
 
毎日飽きもせず、同じような時間に、前田慶次は我の城にくる。
そして我を呼ぶ。
別に気になっているわけではないが…
「はぁ…」
筆が進まない。策も、思い浮かばない。
 
「元就様、どちらへ…?」「城のまわりだ。誰もこなくてよい」
「はっ!」
 
サクサク
(何であんなウルサイ男のコトで我が…!)
いつもいつも、いつもそうだ。
へらへらわらって我を呼ぶ。楽しそうに、雨でも晴れでも。
そして我のなかに、どんどんはいってくる。
「あんな男…!…ん?」
 
緑のしげる大木の下、誰かいるのか?
小刀を持って近づく。輪刀、もってくるべきだったか…。
 
「ふぁ〜あ」
「!?」
「よっくねたぁっと…ん?お、元就」
前田…慶次。
「貴…様、ここで何をしている」
「いやーあまりにもいい日差しだったから、昼寝したくなってよー」
我の城内でしなくてもいいこと。
「寝たいのなら帰れ」
小刀をしまいつつ、何かふつふつとした…なんともいえない感情もしまう。
この男のコトなど別に…
 
「つれないねー元就君は」「近寄るな、無礼者」
「なんだ?機嫌わるいな」「貴様がここにいるからだ」
「まーまーちょっと座れって」
「は?」
腕を引かれ、そのまま草むらに座りこむ。
(小刀、しまわなければよかった)
「みてみろよ元就。きれいな青空だぜ」
「…空など、いつみても同じだろ」
「日々違うんだって」
のんびりと空をみる慶次は、なにやら頬がゆるんでいる。
 
 
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