小説

□髪
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つかんでも
つかんでも
するりと指から落ちてしまう。
 
俺が来たことも気付かずに、畳の上で光秀が寝ていた。
「おーい」
「スー………」
起きる気なし。
手には書物。読んでいて風にさそわれるまま寝たんだろ。

軽くため息をつき、隣に座る。
「ん?」
手に触れた光秀の髪。
無造作にながれているソレを手にとってみる。

スルリ

あっという間に手からはなれる。

つかむ

スルリ

つかむ

スルリ

何度つかんでもすりぬけていく。
その感覚が何となく楽しくなって、何度も何度もつかんでみる。

「愉しいですか?」
「ぉわ!」
「おどろきました?」
クスクス笑って光秀は体をおこす。
「寝てたんじゃねーのかよ」
「寝ていたら何をするかと思いまして。」
ってことは?
「はじめからおきてたのかよ。」
「えぇ勿論。」
罠にはまった気分だ。
不機嫌な顔で睨んでやれば、上機嫌な顔で俺の髪に頬をよせる。
「光秀?」
「あなたの髪は、太陽と海の香りがしますね。」
「そりゃーな。」
「好きですよ。」
「っ…たく…」
そういわれると、許すしかないってのもどうなんだか…
細い体を抱きよせれば、光秀の髪がふわりと舞う。
手ですくえば、しっくりとおさまる。
(さっきまで抜け落ちていたくせに)
そっと唇をよせる。
 
「髪だけですか?」
「うるせー。俺をはめた罰だ。」
「いじわるですね。」
クスリと笑う光秀をもう少しだけ強くだきしめた。

光秀の白く、銀色な長い髪が、俺の指にしっかり抱きつくように。










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