小説弐

□雨傘
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いつも雨にうたれているのは
私のほうだった。
今日は・・・



「ん?」
ばたばたと雨が降る庭に
孫市の姿。
「・・・孫市」
「・・・」
「・・・さやか」
「・・・」
考え込んでいるのか、まったくこちらを振り向きもしない。
柔らかな髪は雨によって重たくなり、風にもなびかない。

放っておくか・・・?

いや、風邪をひくか。
いつも私が雨にうたれていたら
孫市はどうしていた?



「!石田・・・?」
「風邪をひきたいのか」
「あ、わるい・・・」
「まだ外にいるようなら、これを使え」
「いや・・・」
いつになく歯切れが悪い。
「なんだ、はっきりしろ」
「・・・これのなかだと、私になってもいいか」
傘が何だというんだ?
「石田しかいないもんな」
「こんな傘の中じゃ二人が限界だろ」
「そうだな」
!!?
「な・・・」
孫市の濡れた髪が頬の下に当たる。
「なんのつもりだ・・・!」
「少しだけ・・・」

孫市のものとは思えないくらいの
弱々しい声色。
「雨が続くと・・・ダメだな・・・気持ちまで落ちていく」
「・・・」
「ふぅ・・・悪い、大丈夫だ、なんでもない」



慰め方なんか知らない。

今この孫市を独りにさせたくない。
気持ちより身体が動いたのだと思う。



「いし・・・」
傘を持っていない腕で
孫市を抱きしめていた。



「石田・・・?」
「だまれ」
「・・・ありがとう」
「・・・」
「かっこいいぞ?」
「うるさい」
「ふふ」
「・・・」
思った以上に細い肩に驚いたが、それよりも冷たさのほうが気になった。
「寒くないのか」
「今はな」
「これからは傘を持って外に出ろ」
「石田にだけは言われたくない」
・・・
「持って出ないのもいいな」
「何でだ」
「迎えに来てくれた」
「こなかったらどうしていたんだ?」
「普通に自分でもどってたさ」
私のときはいつも・・・
そうか
いつも孫市がこうして傘を持ってきてくれたな。


「もうはいろう?石田まで風邪をひくぞ」
「あぁ」
「熱いお茶でも淹れよう」
「その前に貴様は髪を拭け」
「あ・・・」
さっきまでの弱々しいところはなく、いつもの孫市に戻っていた。
「石田、ありがとう」
「もう聞いた」
「ふふ・・・そうだな」
「もう、いいのか」
「あぁ、石田が迎えに来てくれたからな」
「・・・」
「今度、あじさいを見てみようか」
「この時期か」
「そうだ・・・雨の日に、こうしてさ、傘持って」
「あぁ・・・そうだな」
二人で、傘の中話をするのも、悪くはない。






了。

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