奈落物語
□奈落物語 外伝
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私は誰なのか。それは単なる悪魔の子供…と言うしかないだろう。しかしもっと根本的に言うと…私は誰でもない。
親、兄弟、出身、年齢、地位…それらの知識は全て欠けている。いや、欠けていると言うよりもまるでフィルターがかかっている様だった。
降りしきる雨の中、私は自分を知るために歩き出した。
兎も角、此所は暗くて静かな所だった。奈落の中でも特に下のほうなのだろう。治安も決して良さげでは無かった。
通り行く人々は皆、血走ったような目をしている気がした。死神…吸血鬼…魔女…そして悪魔…。自らも悪魔なのに、何を怖がるのだろうか。何に怯えるのだろうか。
唯、本来此所にいるべきでは無い、という感覚が強く自分を捕え始めた。
当ても無く歩き続けてどのくらいたったのか、休むべき場所も食糧も無く、体力は衰えるばかりでその内歩く事も諦めざるをえなくなった。
わかるのは孤独感と無力感だけで、生への執着も特に無かった。
疲れて道端で倒れたとき、このまま意味無く死ぬのだろうか、と妙に落ち着いた気分で思っていた。そのまま記憶は途切れた。
次に目が覚めたのはベッドの上だった。人の気配がしたがどうでも良かった。なにを考えるのも疲れる気がしたからだ。
「あ、起きた?」
その誰かが自分に話しかけてきた。声を聞く限りは、まだ自分と同じくらいの子供のようだ。