ヒカルの碁

□〜階段〜
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藤崎あかりはこの春、大学に入学したばかりの女子大生である。

春の日差しはだんだんと夏色に変わっていき、日焼け止めクリームは標準装備な今日この頃。
あかりは気合の入った服とメイクで、意気揚々と家を出た。


向かう先はすぐ隣の家である。
表札には進藤の文字。
ここはあかりの幼馴染である進藤ヒカルの家。

今日はヒカルとのデートなのだ。



もちろんヒカルとあかりが恋人であるというわけではない。

幼馴染といっても中学までで、ヒカルは高校に入学することもなく囲碁の道へと進んだ。
確かに生活スタイルが違うためなかなか会えないのだが、そこはお隣同士、疎遠になるというほどのものではない。


しかし、ここ数ヶ月、あかりはヒカルとほとんど会っていない。
正確には五月の初めくらいからだろうか?

進藤家にちょっとしたお菓子のお裾分を持っていっても、ヒカルは毎日のごとく出かけているのだ。
まぁ、対局が忙しかったり、棋士仲間と盛り上がっているのだろうとあかりは思っていたのだが。





そんなある日、正確には昨日の夜、あかりのもとにヒカルから電話がかかってきたのだ。
なんと、一緒に買い物をしてくれないかとお願いされたのだ。
それに二つ返事で了承したあかりは、ちょっぴりお洒落してヒカルを誘いに早めに家を出たのである。


幼馴染の長年の経験か、女の勘か、あかりが誘いに来た時、ヒカルはまだ布団の中。
早めにやってきた彼女のおかげで、ヒカルは約束していた時間通りに家を出ることができたのだった。










「それで、ヒカル、何を買うつもりなの?」


寝坊したせいで朝食がまだだったヒカルのため、駅前のファーストフード店に寄った二人。
ジュースだけを頼んだあかりは、席について隣のヒカルを見た。
バクバクと食べる姿は、昔とあまり変わっていない。

しかし今のヒカルは大人に混じって対等な戦いをしているプロ棋士。
やはり昔とは違い、同年代の子と比べると子供っぽさは抜けている気がする。
(実際は10歳の女の子と口喧嘩するほど、中身は昔と変わらない)
ここに来るまで、あかりはすれ違う女性たちがヒカルのことを注視していることに気付いていた。


今や若手棋士の双角と云われる塔矢アキラとヒカルは、そのルックスでもって雑誌にもよく取り上げられている。
囲碁に興味がなくともヒカルのことを知っている者がいてもおかしくはない。

いや、知らなくてもヒカルは確かに目立つ。
前髪だけが金髪だとかではなく、雰囲気がどうしても常人とは異なるのだ。



(分かってたけど…ヒカル遠くなっちゃった…)


そんな考えを首を振ることで脇にどかすと、あかりは笑顔でヒカルに尋ねていた。


  
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