洋館シリーズ

□洋館へ行こう!3
1ページ/2ページ




首都郊外の、とある閑静な住宅街の一角にソレはある。

この現代日本ではまず見る事のできなくなった古びた西洋の屋敷。
由緒正しいレンガ造りの外観は、どこかの避暑地にでもあれば歴史ある小洒落た洋館として人気を博すだろう。
広々とした庭は多種多様な植物たちの楽園であり、涼しげな木陰は五月半ばの陽気から人を優しく守ってくれることだろう。

しかし、周囲がコンクリート詰めにされた住宅街において、その洋館はただひたすら不協和音でしかなかった。
整備されているならともかく、長年放り置かれていたことが如実に染み出る、蔦が這いまわる塗装が剥げかけたレンガの壁。
元々植えられていたのか、勝手に生えてきたのか分からないほど、草木は自由奔放に伸びきっている。

この古びた洋館に、近所の誰か付けたか、あだ名は幽霊屋敷。
その異様な外観ゆえに、界隈に立ち並ぶマンションには交通の便が良い立地にあるというのに、空家が多い。
洋館は近所の腕白坊主たちの度胸試しの場として、有名であった。


しかし、ごく最近は近所の奥様方を中心にひっそりと有名になりつつある。
一年ほど前、そこに引っ越してきた洋館の主を筆頭に、段々と数を増やした住人たちの為である。
重厚な鉄門から覗く屋敷に暮らすのは、奥様方の目を見張らさせるような美少年ぞろいだったのだ。
おかげで、洋館にはまた新たな噂がひそかに囁かれることとなる。


いわく、洋館の主は美少年たちを囲う変態親父野郎ではないか。




もちろん、かの洋館の主がひそかに出回る噂を耳に入れることはない…筈である。たぶん。恐らく。きっと。








そんな洋館に、ハオと名乗る人物が訪ねてきた―――もとい行き倒れていたのはつい三日前のことである。
進藤ヒカルがこれから新しく通うこととなった学校を訪ねた帰りに、ハオとの出会いは待っていた。


変態親父野郎では、もちろんない洋館の主、若干12歳のうずまきナルトとハオは知り合いであった。
金髪碧眼の裏表激しいナルトはかつて実父とともに全国を、修行と称して歩き回っていたことがある。
その旅の最中、ナルトとハオは出会ったのだ。



『僕の家も代々霊能者でね、ナルトと彼の父上のことは同業者の噂としてちょっとだけ耳にしていたんだ。
僕は神様にお仕えする大事な巫子だから、滅多に外に出られなかったけど噂だけはたくさん集めてたからね。
ナルトが9歳か10歳くらいかな?二人が僕の家を訪ねてきたのは。
年も近いし、霊の話もできるし、その時から僕らは友達なんだよ』


洋館の前に行き倒れていた(というか呑気な事に眠っていた)ハオは、夕食当番だったアスランのご飯を思う存分堪能してから、皆の前でにっこり笑ってそう説明した。
その皆というのも、超霊媒体質だの吸血鬼だの仙人見習いだの神様見習いだの、世間の常識を超える者たちばかりなので、へぇと頷くばかりであった。
対して怒りを収められず、始終目を吊り上げていたのは友人のはずのナルトである。

特にハオが『ここへ来たのはナルトばっかり神依りだの吸血鬼だの面白そうな事と関わってるなんてズルイじゃないか。だから僕も混ぜてほしくて♪』と言った時には、本当の鬼が降臨したかのようだったと後にキラは語った。




そんな大の大人の政治家でも尻尾を丸めて逃げ出す天才大陰陽師の怒りを、ハオはにっこり笑顔で受け流した。
ハオってスゴイねぇと、よくナルトの怒りを向けられるヒカルとキラは隅っこで頷き合っていたが、ナルトの怒りはイタチが宥めてなんとか沈静化した。
それから各々自己紹介をしたのだが、そこでも一波乱。


原因はハオがずっと腕に抱えていた赤いマルッとした変な生物だった。
なんと、この小さな変なマスコットがハオが仕える神様本人だというのだ。

「僕が仕える神様って、炎の神なんだよね。だから、ファイって呼んでるんだ。可愛いだろう?」

火→ファイアー→ファイという、なんとも単純な名前らしい。
小さなマスコットのような姿は仮の姿らしく、神域に戻れば人の姿も取れるらしい。
正直、洋館の住人たちでこの可愛いクリッとした生き物を神様と認識した者は少ない。
あのアスランでさえ、可愛いなぁとファイの頭を撫で回している。

ただ神の擬態すら見破れる目をもったイタチだけが、ファイがどれほど力ある神なのか理解しただけである。




そんな楽しい団欒の時間は、ハオが話のついでのようにナルトに声を掛けたことで崩れた。

「そういえば、僕の家で国家鎮火の秘祭をするんだけど、ナルトも参加してくれない?」
「!?」

その瞬間、明らかにナルトの顔色が変わった。
驚愕に染まった顔のまま、ハオの腕を掴み取るとわき目もふらず、自室へ向かって居間を飛び出していったのだ。
ファイもまた、ハオの後を追ってふよふよと飛んでいってしまう。


「どうしたんだろ?ナルト」
「さぁ…秘祭ってなんだろうな」

キラとアスランが仲良く顔を見合わせる。
当然、ヒカルと佐為もきょとんと首を捻っていた。

「秘祭とは文字通り秘密の祭り。一般には公開せず、関係者だけで行う神事だ」

そんな四人に、一応霊能者一族の生まれであるイタチが簡単な説明をする。
しかし、何故ハオが秘密の神事にナルトを呼ぶのか、それを聞いたナルトが慌てふためくのかは誰も理解できない。
結局、ナルトが後で教えてくれるだろうと結論付けた五人はそれぞれ趣味の時間にはしる。

イタチはまともに見たことがない外の世界を、わくわくとテレビによって勉強中(ゆえに知識の偏りが酷い)。
キラとアスランは自室にこもり、プログラミングと機械工学の勉強。
もちろん、ヒカルと佐為は対局だ。







だから、彼らは知らない。

ナルトとハオが、どんな会話をしていたかなど…。



「ナルトがいるなら、いいだろう?イタチ達も参加させても」

「あの祭りに?冗談じゃない!」

「いいじゃないか。ナルトだって、興味あるって言ってただろう?」

「…だが、他の四人はいいとしてもイタチを館の外にだすのは…」

「僕とファイが責任もつから。―――今年の神事、なんとなく嫌な予感がして」

「!…それが本音か。オレを引っ張り出すほどヤバイのか?」

「さすが自意識かじょーだよね。…ふふ、冗談だよ。そんなに睨まないでよ。―――まぁ、なんとなくなんだけど…あのとんでもない見鬼のイタチほどじゃないけど、僕の勘だって当たるんだよ?」

「別に巫子の勘を疑ってるわけじゃないが…」

「それにね、千年以上続く麻倉家の秘伝の書…見たくない?」





「………………ったく、しょうがねぇな。今回限りだ」

自身の欲に負けたナルトに、ハオはファイを腕に抱きこみながらにっこり微笑んだ。


  続く
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ