ヒカルの碁

□  月夜の裏路地
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「見張りなどたやすき事。それより、我等も貴公に礼を申し上げる。
人を弾みとは言え、傷付けた我等の仲間を術者より救って頂いた」

塔矢から救ったあの妖獣のことである。

「そんなの気にすること無いって!この廃屋を見つけてくれたんだし。
・・・さっきの妖獣、大丈夫なのか?」
「心配無用。近くにいた魔が親の元へ送り届けている。貴公に会えたと興奮しておるそうな」
「そっかぁ。良かった!」

本当に安心したと喜んでくれるヒカルに周囲の魔も喜ぶ。
妖魔が無事だ、と喜ぶ人間はあまりにも少ないのだ。




「さぁ、夜はまだまだこれから!
見張りはもう必要無さそうだし、皆は夜行するんだろ?行ってこいって!」

笑顔でそう言うヒカルに怪猫はもう一度お辞儀をして、他の妖魔達に夜の街へ繰り出しに行こう(つまるところ百鬼夜行のことである)と促がした。
そしてヒカルと猫だけになると、もう一度、今度は深くお辞儀をし、

「真に感謝致す。魔女殿」

と言って、暗がりに消えていった。








魔女―――それは魔と自然と共に生きる者達のこと。
男女問わず、そう呼ばれている。

中世ヨーロッパの「魔女狩り」以降は術者が力を得ているが、今は何か犯罪でも犯さぬ限り魔女狩りが行なわれることは無い。

それでも術者と魔女の間には今だに深い大きな溝があることに変わりは無い。

魔を友と慕い、『契約』を交わして使い魔と為して、一生を共に過ごす魔女達にとって、魔を滅すると豪語する術者は極悪非道の何者でもない。
魔女であるヒカルもその例に漏れず、塔矢と険悪な状態になったわけである。





さて、妖魔達が去り一気に静寂がたちこめる廃屋の中。
ヒカルは妖魔達が用意してくれたのだろう、コンビニ弁当を食べていた。
妖魔達がどのようにして、それを手にしたのか考えると頭が痛くなるが、生憎ヒカルはそんなことに頓着しない性質だった。


それよりむしろ、大魔女たる祖母の後継者であったヒカルがコンビニ弁当を頬張っている方がよっぽど頭の痛くなる光景でだった。
しかも、大口でよく噛まずに食べていたせいか、のどに詰まってしまう始末。



「うっ・・・!!」

ヒカルがうめいたその時、横からすっとペットボトル(これまた妖魔達が用意したのだろう)が差し出された。
ヒカルはそれをひったくるようにして手に取り、口の中へ流し込む。

本当に大魔女の後継なのか訊ねたくなってしまう姿である。


  
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