ヒカルの碁

□  月夜の裏路地
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塔矢が呆然と人一人が消えた闇を見つめていた頃――


当の消えた少年はあの場から数キロ離れた場所にいた。
術者の邪魔をした謎の少年こと進藤ヒカルの術である。
あらかじめ『印』を付けておいた場所に空間を捻じ曲げ、移動する特別な術。

術者どころか大抵の魔女が存在すら知らないような、一子相伝なうえ口伝の門外不出のシロモノだ。




『印』を付けておいたのは、屋根があることだけが唯一の救いのようなボロボロの廃屋。
一応見張りを置いておいたが、深夜で場所が場所なだけに心配する必要はなかった。
そうヒカルが思っていると、無理矢理見張りを申し出てきた者たちが、彼が帰ってきたことに気付いて、わらわらと集まってきた。



その全員が全員少しと言うか多少と言うか、なんと言うか―――……はっきり言おう。
人とはまったく違う、異形の姿をしていた。



例えば…



尾が二本に分かれた猫(ただし大きさは虎並)。
青っぽい紫のような緑のような赤のようなフワーと動く霧状の何か。
三つの目がある翼のついたリス。
古い壷に手足が生えたモノ。
空中に浮かぶ鬼の首とその周りを飛び回る火の玉。
妖艶な美女の顔を持つ巨大蜘蛛、などなど。




それらが一斉にヒカルの方へ駆け寄ってくるのだから、普通の神経なら卒倒モノである。
か細い神経ならば、即刻あの世の切符が手に入ること請け合いだ。
しかし、ヒカルの神経は細くも普通でも無かった。


嬉しそうに(顔では無く気配で読まなければ、例え怒っていても判らないのもいるが)駆け寄ってくる妖魔達に、あの太陽のような笑みを見せる。

「皆、見張りありがとな!」

朗らかに妖魔達に礼を言う姿からは、先程塔矢と険悪だった様子は微塵も感じられない。
一方、礼を言われた妖魔達はさらに嬉しそうである。


その妖魔の一団から、二本の尾を持つ猫が歩み出た。
この辺り一帯の魔のまとめ役だ。
その怪猫は少し膝を折り、ヒカルにお辞儀のようなものをすると話し始めた。


もちろん、話すのは流暢な日本語である。



   
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