ヒカルの碁

□  月夜の裏路地
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暗い街の裏通りを駆ける者がいる。
表通りの人波も電灯の明るさも、ここには存在しない。
それでも障害物に躓く事無く、それどころか機敏な身のこなしで避けていた。
それもその筈、彼は暗視の術が使えるのだ。

魔を狩る者<術者>である。


見たところ十代前半の少年であるが、原則として術者に年齢は関係無い。
必要なのは努力と度胸、そして才能である。
尤も、幾度も試験を必要としているので、彼のように十代前半は珍しい。
しかも、髪型も今時分では珍しいおかっぱ頭である。


そんな彼の名は塔矢アキラ。
若干14歳にして、中の下級までの魔なら一人での退治が許されている。

そこまで来るのに大抵4、5年かかるので、たった2年でここまで上ってきた塔矢の努力や才能は素晴らしいものである。
その彼がこんな裏路地を走っているのは、勿論『魔狩り』の為である。


下級の妖獣が人を襲ったと通報があった為、単身でここまで来たのである。
そして塔矢には闇に紛れて、常人には見えない妖獣がはっきり視えていた。
彼は今、それを追っているのである。




塔矢は先程から続くこの逃走劇を早く終わらせたかった。
時刻は深夜である。
術者の仕事である魔狩りは9割方夜に行なわれるので、術者は昼夜逆転生活を余儀なくされる。
塔矢もそれは承知である。

だが折角修行を始めようかという矢先に呼び出されたので、いささか機嫌はよろしくない。
なので、塔矢は早々と懐の術符に手を伸ばすことにする。



複雑な文様が描かれている術符を妖獣の行く手に放つ。

「障霊壁!!」

塔矢のその声に反応して、符が光を放った。
瞬間、不可視の壁が現れる。
逃げ回っていた妖獣は突如現われた見えない壁にぶち当たり、驚いて月の光の下で姿を結ぶ。


体躯は大きな猫並だが、額に生えた三本の角、灰銀色の兎のような長い耳、小さくても鋭い牙と爪。
ソレはどう見ても人外の生き物、術者の敵――魔と呼ばれるモノだった。


塔矢はすでに用意していた術符をソレに放つ。
小さな妖獣は竦んで動けない。


火は全てを浄化する。
炎の浄化による消滅を、と呪文を紡ぐその寸前。
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