ヒカルの碁

□〜祖母〜
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今日も今日とて、彩の病院へやってきたヒカル。
いつものように裏口からこっそり入ると、病室を目指す。

しかし、この日はいつもと少し違っていた。

珍しく花鈴の“妨害”(ヒカル主観)に会わずに、彩の部屋をノック一回。
「オレだ」とツーカーな熟年夫婦のように一言だけ告げ、部屋に入る。



「あ…ヒカル!?」

そこにいたのは、何故か顔を真っ赤にして慌てる彩と―――

「おや?彼が噂の恋人くんかい?」

爆弾発言をする、優しそうな上品な御老人。


ヒカルにとって夏子以上に頭があがらなくなる人物、彩の祖母・藤原徳子との出会いだった。




 * *



話は少し前にさかのぼる。


その日、だんだんと上半身を動かせるようになってきた彩は毎日の日課として碁石を持ち上げる練習をしていた。
今までは、ヒカルが彩の声通りに石を置いて対戦していた。

しかし、いくら『彩』として物に触れた経験があろうと、千年間幽霊をやっていた『佐為』としては、自分で白と黒の碁石の感触を確認したかったのである。
もちろん、まだそこまで筋力は復活していないので、ピシッとカッコよく打つことはできない。
が、佐為と初めて会った頃のヒカルと同じように、ポトポテと置いていく程度のことはできるようになっている。


その上達ぶりはリハビリの先生も目を瞠るもので、とにかく碁が打ちたいという彩の執念が並々ならぬ証である。
千年も幽霊になってまで碁を求め続けていた執念を甘くみてはいけないということか。




昨日は本因坊戦本戦でヒカルが一勝を飾った記念すべき日であった。

さすがに本戦まで来ると力んだのか、欲が出たのか、出だしは不調だった。
今のところ一勝二敗。

しかし、彩はそれほど悲観していない。
もちろん、楽観視しているわけではないが、今のヒカルならいい所まで行くだろうと師匠の観点で冷静に判断している。

とは言え、喜んでいないわけではない。
携帯により夏子経由で伝わった勝敗に、彩はもちろんのこと、病院中が湧いた。
さすがに昨日は病院には来れなかったが、翌日には駆け込んでくるだろうと予想されるヒカルを彩は楽しみに待っていた。




――傍にいる夏子は、慣れたとはいえ本戦で打つたびに翌日早々に駆け込んでくるヒカルに、呆れ果てていたのだが。


  
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