ノベル
□すみません
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「夜一様・・・」
「なんじゃ?そんな暗い顔をして、らしくないぞ?」
「じ、実は・・・夜一様の大事にしていた花瓶を・・・その、うっかり割ってしまいました・・・・・・」
砕蜂は、夜一の身の回りの掃除をしていたようだ。
夜一は泣きそうな砕蜂を見て、ぽん、と砕蜂の頭に手をのせる。
「なーにを気にしておるのじゃ!花瓶などまた買えば良いこと。おぬしは怪我はないか?」
「はい・・・すみません・・・!!」
夜一はにかっと笑う。
―この人は、まるで向日葵のように笑う―
砕蜂は『美しい』と心底思った。
しかし、そうは言っても花瓶を割ってしまって申し訳ない。
砕蜂は考えた。
大前田に黄金の花瓶を買わせるか?
否 心がこもっていない。
では夜一様の好きなものを考えよう。
・・・大福。そうだ。塩大福。
砕蜂は颯爽と大福屋に急いだ。
―数日後
あの後、買えたのはいいが、仕事続きでなかなか渡せなかった。
今日こそは・・・
砕蜂は夜一の居る部屋の扉を叩いた。
「―・・・砕蜂か。良い、入れ。」
「はっ」
中から声がして、扉を開けた。
「久しく見る顔じゃの。」
「はい、仕事続きでしたのでなかなか来ることができませんでした・・・
あの、この前の花瓶のお詫びをしたくてきました。」
すっと塩大福の箱を差し出す。
「おおっまだ気にして居ったのか!本来なら受け取らぬのだが折角じゃしのう・・・おぬしも食べてゆけ。」
「はい、買ったのは花瓶を割った日でしたので・・・」
ビリビリリッ
夜一は躊躇無く紙包みを破く。
「・・・ん?これは・・・」
夜一の目が引きつる。
砕蜂も覗き込む。
「カビ、じゃの」
夜一が静かに言う。
―そ、そんな・・・夜一様にこのようなものを・・・私は・・・
大粒の何かが頬を伝う。
「ん?なんじゃ砕蜂?・・・泣いておるのか?」
夜一が顔を覗き込む。
「私は・・・夜一様に喜んでもらおうと努力してはいるものの・・・一向に成果が得られません・・・私は足手まといなのです・・・
戦闘においても・・・日常でさえも・・・」
「砕蜂、なにを言っておるのじゃ。おぬしはいつもわしの傍に居てくれる。・・・それだけで十分じゃ」
「すみません・・・夜一様・・・すみません、すみません・・・」
「よしよし。存分に泣け。愛いのう・・・」
美しい、と思った。
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