完結記念部屋
□アイを誓う
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緩やかな音楽が流れている古風な喫茶店。
隠れた名店と噂される位、マスターが入れる紅茶もコーヒーも奥さんの手作りケーキ達もとても美味しい。
以前自分が教えてから近くに寄る事があれば一緒の時はもちろん、
一人でもここに入る程気が付けば彼女のお気に入りの場所になっていた。
からん、と音を立てて店の扉を開いたマルコは、
カウンターにいるマスターに手を挙げ、いつものと告げて店の奥に目をやる。
(おっと、珍しい)
口に笑みを浮かべゆっくりとそこに向かう。
それほど広くない店内の一番奥のテーブル席。
いつもの場所に彼女は入り口に背を向けて座っていた。
少し壁にもたれる様に傾いているのは彼女には珍しくうとうとしているからだろうか。
目の前に座っても未だに自分に気付かない彼女の黒い髪を机越しに緩く引っ張ると、長い睫毛が震えて切れ長の眼が開いた。
「おはよう、マリア」
「マルコ…遅かったわね」
「ん、ちょっと買い物してた。待った?」
「そんなに待ってないわ」
ちらりと腕時計を確認して答える彼女に笑って、
「寝てただろ」
「…目を閉じてただけよ」
「俺が来ても気付かなかったくせに」
目を逸らした彼女にまた笑って、カウンターにいたマスターの奥さんに目を向けると、コーヒーと彼女の為のケーキを運んで来る所だった。
「紅茶のおかわりもお持ちしました。こちらのケーキと良く合いますよ」
にっこりと穏やかな笑みで彼女の目の前にあるティーセットをさりげなく下げて、新しく持ってきたカップにティーポットから紅茶を注ぐ。
ふわりと香る葉のいい匂いに自然に笑みがこぼれる彼女にマルコは満足気に笑った。
「それで、今日はどうしたの?」
ベリータルトを一口食べて、彼女はマルコに視線を合わせた。
「たまには待ち合わせっつーのも新鮮だろ?」
「まぁ、最近はなかったわね」
「だろ?」
うーんと思い出す様に天井を見る彼女の姿は学生の頃には想像出来なかった。
付き合うにつれ彼女は元々のクールな性格に加え、様々な表情を見せてくれるようになった。
それほどまでに自分達は一緒にいるのだ。
ずっと一緒にいても飽きない、それどころかもっと欲しくなる。
(まだ足りないっちゅう話だよなぁ…)
にこにこと機嫌のいいマルコに首を傾げつつ彼女はもう一口ケーキを食べる。
「いきなり呼び出してごめんな?」
「別にちょうど仕事が終わった所だったから、貴方こそ仕事大丈夫なの?」
「今日はもう終わり。珍しいだろ?だから早くマリアに会いたくってさ」
「またそうゆう事言う…」
「久しぶりにたっぷりとデート出来るんだぜ?マリアは嬉しくねぇの?」
「…うれしい、わ」
ぼそっと聞こえた返事に更にマルコの機嫌が上がる。うっすらと頬を染めて視線をそらす彼女は綺麗だ。
顔には余り出ないが、彼女はストレートな言葉に弱いのは相変わらずで、たまに見る事が出来るそれがマルコは好きだった。
(やっぱマリアが一番、)
スーツの中に忍ばせていたそれを取り出し、彼女に見せる。
「見て、マリア」
「?」
真っ黒の四角い箱を開けて口の端を上げて彼女を見た。
「これ買ってて遅くなったんだよね」
「なに、」
「まあ開けてみなって」
さらに小さな箱を彼女は恐る恐る開ける。
中身はだいたい予想出来ただろう。
少しだけ眉を寄せてる彼女をにこにこと見つめながら反応を待った。
「わかってると思ってるけど、返事はYESのみだからな?」
「…本気なの?」
「俺がマリアに関して本気じゃなかった事ある?」
「……」
「なに、嬉しくねぇの?」
むうって感じの顔でソレを見てる彼女は全くの予想外。いや、かわいいけど。
「マリア?」
「…てっきり、貴方の事だから定番で来ると思ってたから」
「夜景の見えるホテルかレストランで薔薇の花束持って…だろ?」
「ええ」
「びっくりした?」
「ええ」
「本当はその予定だったけど、それまで待てなくて、さっき衝動買いしちゃったんだよねソレ」
彼女の手を取って、ソレを付ける。
「うん、似合うよマリア」
「あ、りがとう」
「か〜!そんな顔するなっちゅうの、今すぐ抱きしめたくなるだろー?」
可愛い顔ではにかむ彼女の手を握って引っ張る。
ちゅっ。と音を立てて目尻に浮かんだ涙に唇を寄せたらカウンターの奥からごほんと咳ばらいが聞こえた。
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