完結記念部屋

□プリーズ!
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ちゃり、と音を立てて男が着ているシャツの首元から見えたソレを何となしにに指をかけて出してみる。


(まだ、持ってたんだ…)


何度か瞬きをしてソレをまじまじと見る。


摩季が右手の薬指に付けてる指輪と同じデザインのメンズサイズのソレ。


「…ばか、だなぁ」


アンタも、私も。


何か込み上げてくるものがあって、膝に額をくっつける。


「かけい、」


小さく呟くが寝ている男は反応を示さなかった。






「英語、ちょっとはわかるようになったんだよ」


「簡単な会話なら出来る」


「今の彼氏がうるさいけど、アメリカのアメフトチームの事も勉強してる」



ねえ、わかってんの?



「ご飯も作るの上手くなったし」


「栄養も考えて作れるようになった」


「っ、この指輪だって、高校卒業してからずっと付けてる」



左の薬指には沢山違う指輪がはまったけれど。


「あんたが一言」


右に嵌はめたソレだけは結局外す事はなくて。


「言ってくれたら…」


今の彼も好きだけど、
それよりも、筧の方がずっと好きで。


だから、


「私の全部…」









(アンタにあげる覚悟は出来てんのに)



…その言葉は男の唇に塞がれて言えなかった。



合間に「渋谷」と呼ばれて、ぎゅっと男のシャツを掴んた。
合わさった唇の懐かしさに目を閉じてこたえる。




「…ん、かけい」

「渋谷、好きだ。忘れらんねぇ…」



抱きしめられて、摩季は男の顔を見上げる。


「私も、」


何年かぶりに見た男の優しい笑顔に摩季は幸せそうに笑った。






始めは左手の薬指。それから右手に移ったソレは今日、男の手によって左手にはめ直された――。





end.

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