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□ハジメまして。
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今日は何週間ぶりに家にやって来た高杉に寝ている所を起こされて(正確にはうとうととしている時に部屋の外から声をかけられただけだが)
縁側に二人並んで晩酌をしていた。


たわいもない会話をぽつりぽつりと交わしながらふと隣の男を見た。


今日は月が綺麗に見える為か明かりを着けていない部屋にいてもいつもより顔がはっきりと見える。

相変わらず包帯を巻いている横顔は何を考えているのか読み取れなくて、
唯一見える口元は表情が乏しい(と思われる)為やっぱり何を考えているのか読み取れない。

せめて隠していない方の目が見える位置にいたい。

人として(一対一で会話をするのであれば)そう思うのは当然だと思うのだけれど


(当の本人が全く気にしてないのが問題だわ)


「さっきから人の顔ジロジロ見て…楽しいか?」

「楽しい?」


包帯が巻かれている方しかこっちに向けてないのによく気が付いたわねぇ、なんて内心びっくりしながら男の言葉を繰り返す。

楽しい、

と言うより何と言うか


「興味、が…あります」

「興味?」


あ、やっとこっちを見てくれた。


「貴方が何を考えて此処に来るのかしら、とか」


今日男が此処に来て初めて、
ちゃんと目が合った気がした。


「貴方は私といて楽しいのかしら、とか。」


じぃっと真っ直ぐに向けられている目は月明かりのおかげでいつもより良く見えて、
ほんの少しだけ
心臓がむずむずした。


「…貴方の表情が見えない分、余計に気になります」


見つめ合ったままで
ゆったりとした動作で男の手が妙の頬を、髪を、
撫でる。


思わず視線を落としそうになったが、まるで男の世界に自分だけしかいない。そんな風に真っ直ぐに目を向けられて。
一瞬だけ瞳を揺らして
目を閉じた。




目を開ければ


男の刺すような眼も自分の揺らいだ眼もなく

ただお互いに目を逸らさずに見つめ合たまま。


「知ってました?目だけで会話って出来るんですよ?」

「知ってる」

「高杉さんってわかりやすいですね」

「俺は捻くれたお前と違って自分に正直だからなァ?」

「…高杉さんなんか警察に捕まってしまえばいいんだわ」

「ククッ、それは無理」


喉を鳴らして笑う男は
もう一度妙の髪を撫でて


「嘘、お前もわかりやすい」


と一言呟いて何もなかったかの様に前を向いて酒を口にした。


こっそりと小さく息を吐いて妙もそれに倣う。
先程の言葉でまた心臓がむずむずしたけれどなんとかやり過ごした。


ふと見上げれば月も星も輝いて本当に今日は絶好の月見日和だと思った。


「月が、綺麗ですね」


ぽつり、と話し掛ければ隣の男も空を見上げていて。


「ああ、今日は明るいな。だからお前の顔が良く見えた」

「…そうですか。私も貴方の顔、良く見えました。」


初めてちゃんと会話が出来た気がします。
と言えば
隣の男は口元を孤に描いていて
小さく「そうか」と呟いたのが聞こえた。








.end.

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