貴女に捧げる夜

□第九章・再会
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『松永くん?』



声をかけられたのは、
大学の最寄りの駅構内。



聞き覚えのあるような、ないような…不思議な声に振り向いた。





僕が最後に彼女を見たのは、確か高1の夏。



小さな駅の前を彼と腕を組んで歩いていたっけ。



地元から遠く離れたこの土地で、僕達は再会した。






『すごい偶然…!』



彼女は驚いたような表情で僕に話し掛けてきたが、
彼女よりも僕の方が驚いていたんじゃないかと思う。



地元の高校から進学する大半が関東に来ているとはいえ、
約束でもしない限り、偶然会うことなどないと思っていたから。



『私ね、この沿線の大学に通ってるんだよ』



たまたま用があり、途中下車した駅で僕を見つけたのだという。



『似てるけどなぁって思いながら見てたの。声かけてみてよかった』



内気で少し控え目に微笑むところも変わっていなくて、僕も懐かしさに思わず笑みがこぼれた。



その場は、連絡先の交換だけして別れ、部屋に帰って改めてすごい偶然だな。なんて考える。



こんなに人がいる街で、昔の彼女に再会するなんてドラマみたいだ。



携帯を手に、少し考え…
電話をかけてみることにした。



コールは鳴らない。



あれ?
ちゃんとかかってないのかな?



携帯を耳から離し、見てみると
“通話”の状態になっている。



『もしもし…』



不思議に思いながら声をかけると



“松永くん?”
彼女の少し困惑したような声が返ってきた。




どうやら二人同時にかけていたようで
声も聞こえない、コールもならない状態を、彼女も不思議に感じていたようだ。



電話口から聞こえる彼女のおとなしい笑い声が懐かしい。



彼女、亜耶子は控え目な性格で
派手さはないものの、一緒にいて落ち着ける…そんな女性だった。



話をしていても、そういうところは全く変わっていなくて、



地元の話をしたり
中学の頃の昔話をしたり



懐かしい気持ちでいっぱいになった僕は、週末の予定を聞いてみた。



未定だと彼女は答え、
“よかったらお茶しよう?”と続ける。
僕は嬉しくなり、勿論二つ返事でOKした。
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