貴女に捧げる夜

□第八章・克服
3ページ/7ページ

よく見ると、飲んでいるのは彼女だけではなかった。


メンバーほとんどが酔っ払いと化していて、僕を誘って連れてきた隣人もソファーに突っ伏している。



こんな状態になるまで飲む理由がよくわからないけれど、1人シラフというのも少し寂しく…



僕は、持っていたジョッキをぐいぐい空けていった。



ジョッキを3杯空ける頃には、全身が火照っているのがわかった。



居酒屋でバイトしていたくせに、僕はお酒をほとんど飲んだことはない。
未成年なので、当然といえば当然なんだけど。



首が座っていないような状態の僕を指差して



『めっちゃ弱いなぁ』



と、彼女が笑う。



これ以上ここにいると帰れなくなる、と思った僕は
ほろ酔い状態の幹事にお金を手渡し、店を出た。



『待って!!』


呼び止められて振り返ると、
彼女が走ってきた。


『なんで帰るん?』

『なんでって…終電近いし…』

『え〜?じゃぁうちも帰る!』

『家、どこなの?』

『リョータくんは?』

『○○だけど…』

『わかった!行くか!』



どうして、そんな言葉になるんだろう…と思いつつも、
どうやら僕はこの強引なノリが嫌いじゃないらしい。


腕を組み、ご機嫌に歩く彼女と、僕の部屋に行くことになった。




『殺風景な部屋やなぁ』



部屋に入るなり、ため息をつくように言う彼女。



『男の部屋なんてこんなのでしょ?』

『うちの男の部屋はもっとゴチャゴチャしてんで!
ギターとか楽譜とか…。ポスターとかも貼ってるし。』

『それって、音楽してるからじゃない?』

『リョータくんは無趣味?』

『…いいじゃん。別に』



………



………………



『って、付き合ってる人いるの!?』



あまりにあっさりと話すものだから、
思わず聞き流すところだった。



『おるよ〜。男は地元の大学行ってるけど』



さらりと返す彼女。



”付き合ってる人いるのに、男の部屋についてきてもいいの?”



なんて愚問だな…と、思うくらい
彼女からは罪悪感らしきものは感じられなかった。



ベッドの上で寛ぐ彼女に、缶のウーロン茶を手渡す。


『ビールないの?』

『ないよ。飲まないから』


気分が悪くて早く横になりたかった僕は、フローリングの床に寝転んだ。



終電は過ぎたし、きっと彼女はこのまま帰らない気がするのでここで寝るしかない。



『何してんの?』



ベッドの上から僕を覗き込む。



『寝る。気分悪くて…』
『え〜?隣に女おってそのまま寝るか!?』



正直…僕だって男だし、下心がないのかって言われればそうじゃないけど
初対面だというのもあるし…



それ以上に、
気分が悪くてそれどころじゃないって言うのが
本音かもしれない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ