貴女に捧げる夜
□第八章・克服
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よく見ると、飲んでいるのは彼女だけではなかった。
メンバーほとんどが酔っ払いと化していて、僕を誘って連れてきた隣人もソファーに突っ伏している。
こんな状態になるまで飲む理由がよくわからないけれど、1人シラフというのも少し寂しく…
僕は、持っていたジョッキをぐいぐい空けていった。
ジョッキを3杯空ける頃には、全身が火照っているのがわかった。
居酒屋でバイトしていたくせに、僕はお酒をほとんど飲んだことはない。
未成年なので、当然といえば当然なんだけど。
首が座っていないような状態の僕を指差して
『めっちゃ弱いなぁ』
と、彼女が笑う。
これ以上ここにいると帰れなくなる、と思った僕は
ほろ酔い状態の幹事にお金を手渡し、店を出た。
『待って!!』
呼び止められて振り返ると、
彼女が走ってきた。
『なんで帰るん?』
『なんでって…終電近いし…』
『え〜?じゃぁうちも帰る!』
『家、どこなの?』
『リョータくんは?』
『○○だけど…』
『わかった!行くか!』
どうして、そんな言葉になるんだろう…と思いつつも、
どうやら僕はこの強引なノリが嫌いじゃないらしい。
腕を組み、ご機嫌に歩く彼女と、僕の部屋に行くことになった。
『殺風景な部屋やなぁ』
部屋に入るなり、ため息をつくように言う彼女。
『男の部屋なんてこんなのでしょ?』
『うちの男の部屋はもっとゴチャゴチャしてんで!
ギターとか楽譜とか…。ポスターとかも貼ってるし。』
『それって、音楽してるからじゃない?』
『リョータくんは無趣味?』
『…いいじゃん。別に』
………
………………
『って、付き合ってる人いるの!?』
あまりにあっさりと話すものだから、
思わず聞き流すところだった。
『おるよ〜。男は地元の大学行ってるけど』
さらりと返す彼女。
”付き合ってる人いるのに、男の部屋についてきてもいいの?”
なんて愚問だな…と、思うくらい
彼女からは罪悪感らしきものは感じられなかった。
ベッドの上で寛ぐ彼女に、缶のウーロン茶を手渡す。
『ビールないの?』
『ないよ。飲まないから』
気分が悪くて早く横になりたかった僕は、フローリングの床に寝転んだ。
終電は過ぎたし、きっと彼女はこのまま帰らない気がするのでここで寝るしかない。
『何してんの?』
ベッドの上から僕を覗き込む。
『寝る。気分悪くて…』
『え〜?隣に女おってそのまま寝るか!?』
正直…僕だって男だし、下心がないのかって言われればそうじゃないけど
初対面だというのもあるし…
それ以上に、
気分が悪くてそれどころじゃないって言うのが
本音かもしれない。