貴女に捧げる夜

□第八章・克服
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人間関係を作るのがあまり得意じゃない僕が、
周りに馴染み出したのは、残暑の厳しい頃。



何となく顔を合わせていた隣人が妙に社交的な男で、
僕を色んな集まりに連れていくようになったのだ。



その中での、ある飲み会。



違う学課の同い年の女性と意気投合した。



人見知りな僕が、意気投合するなんて
すごく珍しいことで…



でも、僕は理由はわかっていた。



彼女は、2番目の彼女…



アスカに似ていた。


端正な顔立ちに、気の強そうな目元。



背はすらりと高く、シャツとジーンズというシンプルな格好でも、スタイルの良さが際立っている。



『あんま喋らへんの?』



長いテーブルの一番端に座っている僕に、ビールを片手に声をかけてくる。



『もうビールないやん!』



僕のグラスを見て店員を呼び、生中を注文した。



『僕、あまり飲めないから…』
『僕!?自分の事、僕とか呼ぶん!?』



彼女は、大きく開けた口を隠そうとせずに豪快に笑った。



『ごめんごめんっ。今まで周りにそんな可愛い呼び方する人おらんかったから』


何が面白かったのか、目じりに溜まった涙を手で抑えながら、まだ笑いが止まらない様子。



初対面で大笑いされたのに、不思議と不快感はなかった。





彼女の名前は、夏実といった。
関西から上京してきたらしい。



『夏の実って、スイカみたいちゃう?』



彼女はそう言って、頬を膨らませるけど、僕は明るい彼女らしい名前だと思った。



彼女は、次から次へとジョッキを空けていく。



しかし…
よく飲むなぁ…



呆気にとられて見ていると、



『一緒に飲め〜!』
と、無理矢理ジョッキを突き付けられる。
まるで質の悪い酔っ払いだ。



拒否すると何をし出すかわからないので、おとなしくチビチビと飲んでいく。



そろそろカラオケに場所を移そうということになり、僕は“帰る”と言いながら


彼女に強引に引っ張られていった。
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