貴女に捧げる夜

□第七章・旅立ち
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妊娠してるんだ…
だからこんなに丸くなったんだ…



ジッと見つめると、
“太ったって言いたいんでしょ!”と、図星をさされる。



『バレた?』
『リョータ最低!』



慌てて、膨れる彼女を宥めた。



『家族にもびっくりされたけど、今は皆で赤ちゃん産まれるの楽しみにしてるんだ』



大切そうにお腹を擦る。



ツワリはほとんどないからよかったけど、体育をサボる理由が大変だった。とか、

予定日は10月とか

式は挙げずに、来月入籍するとか



幸せそうに話す彼女を見ていると
僕まで嬉しくなってきた。



『アスカはいいお母さんになると思うよ』
『自分でもそう思う』



と、頷く彼女は相変わらずで
僕達は笑顔で別れた。




友達同士の打ち上げもそこそこに、彼女に会いに行く。



駅近くのシティホテルで待ち合わせて、今夜はそのまま泊まる予定。



少し早めに関東に行く僕には、もうあまり時間がなかったので、
ゆっくり過ごしたいね。と言う話になったのだ。



ホテルの部屋で、彼女は



“卒業おめでとうございます”



と、プレゼントをくれた。


中には腕時計。
流行りのブランドのもので、僕は一目で気に入った。



その夜



僕は丁寧に大切に



彼女に愛撫をした。



彼女はそれを全身で受け入れ
力一杯、僕を抱き締めた。



“お休みとかは帰ってきますよね?卒業したら帰ってきますよね?”



微笑むだけの僕の事を
彼女はどう思っていただろう。



彼女もわかっていたと思う。



会いたい時に会えない



距離という問題は、そんなに簡単じゃない。


きっと…
いつでも側にいる人を
見つめ始める。





僕達は、別れるわけじゃなくて
遠距離恋愛という形になったのだけど、



新しい場所での生活に慣れようと
忙しい毎日を送る僕と



なかなか電話も出来ない寂しさを紛らわすためなのか、
バイトの時間を増やし、外で過ごす時間が多くなった彼女が



擦れ違うのは必然で



夏に予定していた帰省を中止した、という連絡を最後に



どちらともなく
僕達は自然消滅した。
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