貴女に捧げる夜
□第一章・僕という人間
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強く閉じた瞼を戸惑いがちに開いた彼女が見たのは
彼女の肩に手を添えながら
辺りを見回している僕の姿。
何かを小さく呟いた声が聞こえて、それに気付いて、彼女を見た時
彼女の大きな瞳からは涙が零れ、頬を伝った。
『あの…』
言い訳をしようとした僕の小さな声は
『さよなら』
彼女の、恥ずかしさと悲しみと
多分、悔しさの混じった声にかき消された。
. 僕は、きっとどこかで隠れて見てるだろう、自分や彼女の友人たちを探した
。
校舎の影。
大きな桜の木の後ろ。
殺風景なその場所は、すぐに探す場所なんてなくなり、
勿論、誰も見つからず…
僕は彼女の走り去った方向を
追い掛けることも出来ずに、ただ見送った。
ごめん。
届くはずのない言葉を、ポツリと呟きながら。