小説
□月RIA
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――貴方の名前は月浦守尽で間違いありませんね?――
――モノローグ――
『月のない夜で』
何かに誘われるようにして俺は家を出た。
ひたひたと星明かりの下をさ迷い歩いた。
夜空を仰ぎ見て月がないことに気付いた。少しだけ探したけど見つからなかったから、今日は新月なんだなと勝手に結論づけて、深くは考えたりはしなかった。
月はなくとも十二分に明るい。月の不在の埋め合わせをしているのか、いつもより星達が明るく見えた。
目的も理由も意味もなく歩いた。
俺は一体何をしているのだろうか?
家に帰ろうかと考えて、やめた。家に帰ったところで温かく迎えてくれる家族はいないし、家にいてやることなんて風呂に入って寝るだけだ。
家にいようが、外にいようが結局、俺の行動に目的も理由も意味もありわしなかった。
気が付くと公園についていた。
夜の公園に人影はなく昼間の賑わいが嘘のように静まり返っていた。
聞こえてくるのは公園の中央にある噴水の水しぶきの音。
俺は自然と噴水に歩み寄った。
噴水から舞い上がる水は夜の光に照らされて星のようにキラキラと輝やいていた。
その輝きを浴びるようにして噴水の淵には一人の少女が腰掛けていることに気付いた――いや、正確に言うなら俺はその少女がここにいることは知っていたことに気がついた。
なんの目的も理由も意味もなくさ迷っていたつもりではあった。
だが、俺は噴水の淵に腰掛ける少女を目の前にして、感じた。
俺は彼女に呼ばれていたのだと
理屈がどうのこうのということではない。
直感でそう感じたのだ。
漠然として不明瞭なものだけど、たしかにそれはそうあるものだと認識できる。わからなくともそれは確実にそこに存在している。
彼女がそこにいることが当たり前であった。
それが当たり前であるように俺は彼女の前に立つ。
彼女は立ち上がり腕を組み俺を見据える。
長いツインテールに翡翠色の綺麗な瞳、白と黒の短いドレス
――とても、綺麗だ。
闇夜に佇む彼女は星の輝きが陳腐なものに感じられる程に輝いて見える。
――ああ、今日は新月なんかじゃなかった。
月は俺の目の前にある。
夜の闇を優しく包み込むように照らす月は人に姿を変えて今、俺の目の前で輝いていた。
彼女はゆっくりと口を開いた。
「貴方の名前は月浦守尽で間違いありませんね?」
俺は無言で頷いた。