お題部屋
□睡眠で10題 9.寝支度
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「ホラホラ、もう寝ちまおうぜ。気ぃ遣う分損だろ」
大野は今の状況を理解していないから、そんなことが言える。もう眠る気満々らしく、了承もしていないというのに布団に潜り込んでは隣りを叩き早く来いと呼んでいた。
その行為がどれほど身を危険に晒していることか。
飢えた獣に己の果肉を差し出しているのと同じこと。
無防備に布団へ転がる大野はこれ以上ないほどに色っぽくて、眠気に潤んだ瞳がまた欲情を煽らせる。
「でも狭いだろ。寝てる最中にキックかましていいのかよ」
「防御するからいいよ。それより早く来い。寒い」
「客用布団の毛布はあったかいぞー」
悪魔の囁きは耳にいれないようにしつつ、客用のいかにも高級そうな毛布をちらつかせた。
杉山にはやはり大野が1番で。
自分の欲望で大野を傷つけるなんて汚らわしい。
そうは言っても思春期真っ只中の健全な男の子。色っぽい大野を見て、中心は僅かながらに反応し始めている。
頭ではダメだと分かっているのに体はコントロールがきかない辺りがまだ中学生だ。こんな自分の体を嫌らしく思う。
体勢は既に微妙な前かがみになり始めていた。
「ほら、見ろよ。すんげーモコモコ」
「・・・毛布自慢はいいっつの。毛布より杉山の方があったかいんだから、早く来いってば」
半ば唸るように言った言葉に杉山硬直。
この言葉はないだろう、と思う。
お前は毛布の温かさよりオレの温かさがいいのか。
杉山は他の人と比べれば体温が高い。それはいつも大野から言われていたし杉山自身、その自覚はあった。
しかしどう考えても毛布よりは。
空気を含みふわふわと膨れ上がる毛と人間の肌では、人間がどうあがいても毛に勝てるわけがない。
そんなこと、小学生でも分かる。
だけど、大野は、
「さみいっつってんだろ。インフルエンザになったらうつすぞ!!」
杉山を呼ぶ。
それがどういう気持ちでからか、杉山には分からない。
意識しているのか、していないのか。
・・・違う、大野の場合どちらでもない。
『分かっていない』
今の発言がどんな意味を持つか、杉山の心をどれほどかき乱したか分かっていない。簡単に言えば素だ。
「すーぎーやーまー!!」
・・・あぁ、何でよりによってコイツはこんなに疎いんだろう。
無防備な姿で誘惑して、翻弄させて、追い詰める。
杉山は短くため息をついた。
きっと今夜は眠れない。
少しでも気を緩めたら欲望に流されてしまうから。
「・・・・分かったよ、蹴っても怒んなよ?」
天使も悪魔も呆れている。
大野は満足そうに笑って、杉山の体温を確かめるかのように擦り寄ってきた。
それだけで既に膨らみ始めていた杉山自身は、更に硬度を増して。
冷や汗を背中にかきながら、軽く腰を引いて悟られないようにする。
「・・・やっぱお前あったかいわ」
「そりゃどうも」
杉山の心も、体も、当時の大野は何一つ知らない。
今はといえば「杉山と寝たらオレの身が危ない」なんて遣わなくてもいい気を遣っている。
その気をこのときに遣ってくれればどれほど楽だったか。
結局この夜杉山は一睡もできず。
かと言って襲うこともできず。
したことと言えば髪の香りを楽しむことと、頬を一瞬触ったことくらいだろうか。
END
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