お題部屋

□睡眠で10題 2.眠れない夜
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すると、そのとき



「うっわ・・・!!」



鮮やかな光を灯しながら携帯電話が鳴る。


ピリリ、ピリリ、と無機質に。


メール受信音には曲をつけているが、電話着信音には曲をつけていない。今響いている音は内蔵されている電子音。

ということは、メール返信ではなく、電話である。


誰だ、誰がこんな時間に。


夜中、しかも部屋に一人きりというときにこの音はなかなか恐怖心を煽るものである。案の定、大野の肩も僅かに震えている状態だ。

以前見た映画の類だったらどうしよう。

そんなこと今まで考えもしなかったのに、ただ今は怖くて怖くて、無機質に鳴る携帯電話をじっと見つめる。
意を決して誰が電話をかけてきているのかを見た。もし非通知とでも書いてあったら今度こそ眠れなくなってしまう。

だが、そこに表示されていた名前を見た途端、大野は瞬時に電話に出たのだ。



「杉山!?」



声は喜びではちきれそうだったが、今は夜。ひっそりとボリュームを落として相手の名を呼ぶ。
恐怖を宿した瞳はどこへやら、キラキラと星が映ったように光り本当に嬉しそう。



「悪い、もしかして起こした?」
『いや、大丈夫』



そうは言うが杉山の声はくぐもっている。起こしていないことが事実だとしても、これは明らかに寝入る直前だっただろう。
申し訳ないことをした、という罪悪感が大野に沸くけれど、それよりも電話をかけてきてくれたことに対する喜びが大きくて。



「てかわざわざ電話かよ」
『だってそっちの方が、お前喜ぶだろ?』
「・・・何言って・・・!!」



電話越しに、杉山が笑っているのが伝わってくる。
本心をズバリ言われ大野の頬は真っ赤だ。反抗してみても語尾が掠れてしまっているので迫力はない。



『・・・で、眠れねぇの?興奮して』
「・・・っ・・のエロ!!誰が興奮してるか。そりゃお前だろ」
『まぁこんな時間ですから』
「うわ、否定しろよ」



クスクスと笑いを堪えながら杉山の声に耳を澄ませる。


杉山の声は温かくて心地がいい。
耳を低音でくすぐり、眠れなかった不安もちょっとの恐怖心も全部吹き飛ばしてくれるようだ。

それもこれも大野が杉山を好きだからなのだれども。
耳からじんわりと広がる温もりに酷く安心する。



「―――・・・・・何かお前の声って気持ちいい」
『そうか?』
「・・・うん、何かボーっと・・・するっつーか・・・」



大野の言葉の歯切れが悪くなる。
切るべきところではないところで文章が切れたり、妙な間が開いたり。



『ボーっとする・・・って大野。お前、それ眠くなってきてんじゃねーの?』
「そう・・・かも・・・」



杉山が苦笑する。
そう言ったが最後、電話の向こうからは安らかな寝息が聞こえてきて。
小さく、規則正しく、でもしっかりと。

愛する恋人の声を聞いて安心しきったのだろうか。
小さく拳を握り眠る姿は、母親の声を聞き眠る幼子のよう。



『大野ー、ちゃんと電話切ろよー』



杉山が電話の向こうで笑ったが、その声はもう既に大野自身には届いておらず。


愛する恋人の声の温もりの中、大野はまどろみへと落ちた。





END




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