お題部屋

□睡眠で10題 9.寝支度
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杉山は、今でこそ大野と恋人同士でキスやら何やらをしてはいるが、片思いの頃はそれはもう大変だったのだ。
そう、これは中学校二年生のときだったろうか。まだ東京に住んでいた大野が、冬休みを利用して杉山の家へ泊まりに来た時のこと。



「・・・・何だって?」
「だからオレの分の布団敷かなくていいって言ったんだよ」



時計は夜の11時を告げていた。
この爆弾発言は、それまでやっていた格闘ゲームにも飽き、そろそろ眠り支度をしようと杉山が客用布団を出し始めたときに大野が言ったもの。



「だってさ、敷くのもめんどくさいじゃん。明日片付けんのもめんどくさいし」



『めんどくさい』だなんて。
なんとまあ大野らしい理由だこと。

杉山はその言葉を聞き苦笑を漏らした。
小学校の頃から大雑把で面倒くさがり屋の気配は感じられたが、最近は会うたびにどんどんそれが見て感じ取れる。
それに嫌気をさすことはない。この頃にはもうとっくに恋を自覚していた杉山だ、大野の世話をやけるなんて幸せ者だと嬉しさでいっぱいになる。



「でもそしたらお前はどこで寝んだよ」
「そこ」



押入れから出しかけた布団を背中で支えながら問うと、大野は分かりきったこと聞くなよといった感じである一点を指差した。
その一点を辿って、杉山は驚愕する。


―――窓際にあるベッド。


言わなくても分かるだろうそこは杉山のベッドである。

まさか、まさか。
大野はここで寝ると言っているのか。

いや、少し考えればそんなこと分かりきったことなのだが、幸せに浸っていた杉山はそこまで頭が回らなかった。
それは一大事。気付いた瞬間脳内が一瞬にしてピンク色に染まってしまった。

好きな人である大野と自分が一緒に寝ているところを想像し、更には想像してはいけないようなことまで脳裏に描く。

大野の真っ黒な黒髪をすくい、互いに見つめあって。
唇をどちらかともなく重ね、細く白い体を露わにするのだ。

それを想像した途端、カーッと頭に血が上る。
中学生という性に目覚める年頃だということもあり、そういうことを考えてしまうのはしょうがないことだが、本人を目の前にして想像するのはどこか罪悪感を感じてしまって。
自分の気持ちを、目の前にいる親友は知らないのに。
純粋無垢な気持ちで、自分のことを好いてくれているのに。

大野を汚しているようで。

ブンブンとかぶりを横にふった。



「・・・一緒に寝んの?」
「イヤ?」
「違・・、狭いだろどう考えても」
「いいじゃん修学旅行気分で」



イヤと聞かれたらイヤなわけはない。むしろ一緒に寝たい。
しかし一緒に寝たら確実に襲ってしまう。無理矢理組み敷いて欲するがままに大野を求めてしまう。

理性が利かなくなるのは目に見えていた。
だけど欲望が掻き立てられる。

一方からは、一緒に寝てしまえよと杉山の中の悪魔が囁き、もう一方からは、大野のことを考えたら寝るな、と天使が囁いている。

欲望と理性。

相反する気持ちがうねうねと絡み合って、杉山を誘惑する。



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