お題部屋

□睡眠で10題 3.寝顔
1ページ/4ページ




大野のシャンプーの香りが鼻をくすぐった。
そういえば昨日大野の家に泊まったんだっけとぼんやり考えながら、杉山は重い瞼を持ち上げ時計を見る。まだ朝の七時十五分。

昨日は土曜日で今日は日曜日。部活の練習が終わったあと、当たり前のようにここへ来て当たり前のように過ごした。
杉山が部活帰りにここへよることは既に習慣化しつつあり、大野の祖母ちゃんも自分の家族も大して気にも留めない。「今日、大野の家に泊まるから」と言わなくても母さんは分かっているし、さして心配もしていないようだ。以前、大野の祖母ちゃんが熱を出したというので止まらずに帰ってきたら、「大野君とケンカしたのか」と本気で心配されたりもした。

ご飯を食べたあと風呂にはいってのんびり過ごして、そして一緒に一つの布団で寝る。
前に一度大野に言われたことなのだが、祖母ちゃんに杉山用に布団を出さなくていいのかと聞かれたことがあったそうだ。
大野と杉山は恋人同士だということはほぼ極秘である。それは身内も然り。恋人同士が一つ屋根の下に泊まるとなれば、当然そういう行為にも及ぶわけだが、そんなこと分かるはずもない。
祖母ちゃんの問いに大野はどう答えたらいいのか分からず、うっかり「だって汚したらマズイじゃん」と言ってしまった。数秒考えたのち言葉の意味に気付きハッとしたのだが、祖母ちゃんは「確かにジュースとか零したら大変だもんなぁ」と都合よく解釈してくれたようなので助かったらしい。
話し終わったあと、「あーもうマジびびったよー」と半泣きしていた。

というわけで、いつも行為は大野の布団で行われているわけだが、今日も今日とてシーツはベトベトに汚れている。深夜に深々と交わった行為を思い出せばどうしようもないことなのだが、どちらともいえない粘液で濡れたシーツの染みに触れると、大野の乱れっぷりが思い出されて顔がにやけてしまう。
真っ赤な顔で涙をこぼし、否定をしながらも己を求め与えれば子供のようにすがりつく様は、杉山だけが見れる特権だ。

グーと伸びをして再び布団にもぐった。大野は杉山の胸板に顔をうずめ幸せそうに寝ている。寝顔はおしとやかなお姫様なのだが、目が覚めるなり強気ワガママ王子に変身するのでだまされてはいけない。



「大野〜・・・」



そうは言ってもやはり可愛いもので、杉山は大野の柔らかな頬にグニグニとすりよる。白い肌は卵のようにツルンとしていて、同じ男の肌とは思えない。
ちょっとだけ大野が身じろぎしたが、起きる気配はなくまた静かに寝息をたてはじめた。



「・・・お前、可愛いな」



ギュ、と抱きしめるとお互いの肌が密着する。昨日の行為が終わってそのまま寝たから二人とももちろん裸。絡む足がなんだかいやらしい。
大野を見れば頬がほんのりと赤くなっていた。夢の中でもオレに抱きしめられているのか、と思うと嬉しくなりますます力をこめて抱きしめる。

額にキスをするとピクリと反応した。手ぐしで髪をとき指に絡ませ弄ぶ。



「・・・ん・・・」



小さく鳴いた大野に気分をよくして、今度は唇を重ねる。
軽くついばむように触れ、舌で舐めあげ下唇を食む。そのたびに大野は反応し体を小刻みに震わせていた。



「大野・・・」



耳元で甘く囁くと、大野は手をキュと手を丸くした。行為中に大野が声を出すまいと耐える時にする仕草だ。特に一つに繋がって動いているときなんかは、杉山の背中でそれをする。つまり爪をたてる。
なので杉山の背中はひっかき傷だらけ。赤く細い線が幾本も通り、湯に浸かったときなどはピリピリと軽く染みるが、そのたびに大野の愛が感じられて幸せだ。

しかしそこでふと思う。



「・・・大野、もしかして起きてる?」




.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ