お題部屋

□睡眠で10題 2.眠れない夜
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羊が一匹、羊が二匹。

頭の中で白く真ん丸い羊が次々と現れては消えてゆく。

羊が三匹、羊が四匹。

もう何度この言葉を唱えただろう。百まで数えるのすら面倒くさくて、50あたりからまた1に戻ってを延々と繰り返している。
通算すれば羊が300くらいはいくのではないだろうか。



「・・・・くそー・・・・」



特別暑かったわけでも寒かったわけでもない。いたって普通の、吹き抜く風がさわやかな日。

大野は眠れずにいた。

枕は重みで沈み、散々寝返りを打ったのだろう、布団はあちらこちらに皺がよりグチャグチャだ。
ハーフパンツから伸びた足を無防備に晒し、また寝返りを打つ。



「杉山起きてるかな・・・」



カチ、コチ、

秒針が時を刻む音が夜の闇に響く。
時計は日をまたぎ午前一時を告げていた。

大野の視線の先には携帯電話。充電中を知らせるランプが灯っている。

もう既に眠りについているだろう時間だ。こんな時間にメールは気が引ける。



「・・・・・・」



羊が一匹、羊が二匹

目をギュッと閉じて必死に羊を数える。
もこもこした羊が頭の中を跳ねては消え跳ねては消え。


羊が三匹、羊が四匹

眠気よ襲え。大いに襲え。

そう念じるけれど、念じれば念じるほどそちらへ意識がいって眠気が来ない。



「くそ・・・」



再び目を開ける。
頭の中を元気に跳んでいた羊が弾けて消えた。

カチコチカチコチ

いつもは気にしない時計の音さえ今日は耳障り。
闇に染まった天井は大野の瞳を更に黒く染める。



「ゴメン、杉山」



瞬間、何かを決心したのかガバリと勢いよく起き上がった大野。
充電中の携帯電話をひったくるようにして取り、親指を動かしていく。青白い光が大野をぼんやりと照らし、その眩しさに目を細めた。

開いていたのは予想がつくだろう、メール作成機能である。
時計の音とは別にボタンを押す音が暗い部屋に響いた。



「送信・・・と」



ゆっくりと送信ボタンを押して。
カチャンと携帯電話を閉じ、再び布団に潜り込む。

この時間は寝ているであろう杉山がメールを返してくれる保障はないけれど、専用の着信音が鳴るのを信じてじっと電話を見つめていた。


カチコチカチコチ

秒針が時を刻む。
メールの返信はまだ来ない。


カチコチカチコチ

まだ来ない、まだ来ない。やはり寝ているのだろうか。いや、それならまだ良い。もしかしたら寝ているところを起こしてしまい、迷惑がられているのではないだろうか。

夜とは些細なことさえも大きな不安として己を包む。
携帯電話を握る手にはじんわりと汗が滲み、瞳は電話一点を見つめ固まっていた。




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