昼下がりのドロシー

□第八話
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「なんで来たんだよ阿呆!」
「来てんじゃねぇよ間抜け!」

そして、二人の繰り出した足払いとラリアットのコンボを食らったシィルは、見事なまでに綺麗な弧を描いて空中を吹っ飛んだ。

一行と知り合いだということで、とりあえず刀を納めた兵士たちに遠目に眺められながら、一行と双子は円になって互いの状況報告をした。ちなみに双子は、部外者の癖に遠慮なくお握りを三個ずつ食べやがった。

「なるほどねぃ」

草むらに胡座を掻いて話を聞いていたシィルが、顎を撫でながら嘆息する。なんだか偉そうで腹が立つかもしれない。

こちらが案山子丸という旗印を得たのと同様に、魔王という旗印を得た原住魔族は、大陸魔族を倒すべく各地から集いつつある。集合場所は茶漉城に直接。双子は陸路を行くドロちゃんと分かれ、水龍族を率いて水路を進軍していたが、通る予定だった川が土砂崩れで埋まってしまっており、迂回するため遅くなる、ということをドロちゃんに伝えるため、双子は仲間たちと分かれ陸路を行くことにしたらしい。全員で陸路を行くという方法もあったが、水の無い道を行くのは水龍族にとっては、非武装で戦車に突っ込むようなものなので、特に力のある双子だけが選ばれたのだとか。

「ていうか、しぃちゃんはなんでこんなところにいるんだよ〜」
「死にたいの? それとも何にも考えてなかったの? あー、そうだよね〜。しぃちゃん馬鹿だもん」
「ね〜」
「ね〜」

顔を見合わせ声を揃える双子に、シィルは何故か楽しげに笑う。

「しぃちゃん何笑ってんの〜」
「きも〜い」
「いや、何ていうか」

照れ臭そうに頭を掻いて、シィルはにっと笑みを浮かべた。

「お前らといるとやっぱ落ち着くと思ってさ」

きょとんとシィルを凝視する双子の顔が、みるみる赤くなり、同時にぶはっと吹き出す。

「しぃちゃんくっさい!」
「砂が吐ける!」

げらげら笑いながら左右からシィルの顔に張り手をかました双子は、仰向けにぶっ倒れたシィルを見てさらに笑い転げる。その顔がどこか嬉しそうに見えるのは、気のせいだろうか。

「ていうか!」

その様子を眺めていたグリグリが唐突に立ち上がった。

「何でドロちゃんいないんだよー!」
「え〜、さっき言ったじゃん」
「別ルートだって別ルート」
「そうじゃなくて! お前ら自分が何したのか分かってんの!? ドロちゃんはなー! オレたちにとって大切な……」
「大切な?」

双子の片側の顔が、微妙に歪んだ。苦しげというか、悔しげというか。何であんな顔しているのだろう。ま、いっか。

「唯一無二の、大切なツッコミ役なのに!!」

双子は呆れ顔で「「はぁ?」」とデュエットし、腹立たしげに吼えたグリグリを白い眼で眺める。

「ボケ役天才魔道士と鬼畜マッドサイエンティストと二重人格龍とヘタレ侍とナンパ全敗町長の息子だけじゃパーティは成り立たないじゃんか、バカー!」
「馬鹿はテメェだヘッポコ魔道士が!」

懐かしい怒鳴り声と共に、頬に衝撃を感じた。

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