昼下がりのドロシー

□第七話
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体は骨でも飲み食いできます、その名はズバリ、骨回戯児動族、略して骨戯族。元々はもっと内陸部に住み、人間を驚かして遊んでいたが、大陸の妖がやってきたことで、人間に驚かされる余裕が無くなってしまったのと、大陸の妖による原住妖狩りのせいで、故郷を捨てざるを得なかった。人間と協力を呼び掛けようにも、彼らの頭には「妖=敵」の公式がインプットされてしまい、まさに「骨折り損のくたびれ儲け」にしかならなかった。途中で力尽きた仲間の骨を拾いながら、骨を砕いての大陸の妖と人間から身を隠しながらの逃亡生活の末に、ヒイさんに助けられ、ここを安住の定めたのであった……。



「……って、聞いてねえだべ、アンタたち」

佐吉はため息を吐いて、宴会場と化した我が家を見渡した。

「ふははははっ、愚民共めが! 酒だ! もっと酒を持ってこい!」
「どろぢゃああああああんっ」
「ギャオース!」
「ねえキミキミ可愛いねえバストいくつ? お兄さんとお茶しない?」

顔色は変わらないのに目だけがぐるぐる回っているジークは酒乱魔王と化し、グリグリは何が悲しいのが一升瓶をグビ飲みしながら月に向かって吼えている。ライアンは一口で真っ赤になったかと思うと龍型に変化しふらふら踊りながらブレスを吐きまくり、シィルは骨娘にセクハラ紛いのナンパをしては、頬をひっぱたかれている。平静を保っているのは、意外にも案山子丸だけで、彼は一人縁側に腰掛けたまま、手酌で月見酒をしていた。

最初は佐吉家だけの小さな晩酌のつもりだったのが、村人が全集合してしまったため、襖は取り外したが、それでもなお場所が足りず、宴会場は沿道にまではみ出してしまったのである。

まあ、出来る限りの情報提供はした後だったし、別に良いだべさ。

佐吉はため息を吐いて、お猪口に入った酒を一口飲み下した。



その後、例によって例の如く、ジークと案山子丸以外の約三名が見事に二日酔いになってしまったため、出発は翌日の午後になったのだった。



「……という訳で、まずは茶漉領に向かうかドロシー殿を探すかのどちらかだと思うのだが、如何でござるか」

案山子丸が情報をまとめた上でそう言ったが、グリグリはさっぱり聞いてなかったので分からない。なので、

「ハイハイ! オレ早くドロちゃんに会いたい!」

とりあえず自分の願望を言った。案山子丸は難しい顔でそれを聞いている。あまり悩みすぎるとハゲるよ、と呟いたが聞こえないようだ。

「……というか」
「ですよね」

一方、ライアンとジークは微妙な顔で目を見交わす。

「どうかしたのかい」
「いえ」

無駄に爽やかな笑みを浮かべながら尋ねたシィルに、ジークは眼鏡を直しながら答えた。

「どちらにせよドロシーは茶漉領にいる訳ですし、悩むだけ無駄だと思うのですが」
「どういうことでござるか」
「え、分からないんですか。もしかして案山子丸さんって馬鹿?」

思わずといった風で言ってしまったライアンは案山子丸に睨み付けられたが、瞬時にヤクザモードに戻って「何か文句あんのかボケぇ」と睨み返したライアンに、逆に案山子丸の方が顔を青ざめさせている。

「こらこら、駄目ですよライアン。彼らは人間なんですから」
「あ、そっか。魔力の欠片も感じられないんでしたね」

わざとなのかそうじゃないのかは分からないが、ライアンの言い方はかなり傷つく。隅っこでいじけていたら、誰かに肩を叩かれた。

「元気だせ。俺なんて昨日、三十人のガイコツにフラレたぞ」

振り返ると、シィルが白い歯を見せながら親指を立てていた。

「シィル〜! お前バカでキモいけど、今だけは心の友だーっ」
「おうともさっ! バカでもキモくも無いけどな!」

熱い抱擁を交わしている二人を無視して、三人は話を進めている。

「昨晩、茶漉領方面から大量の魔力の放出が感じられました。あの魔力の波動は間違いなく、魔剣ウロボロスを通じて放出されたもの。ドロシーが死んでいない限りは、彼女でしょう」
「どちらにしても急いだ方がいいですよね。もうドロシーさんは戦うことを余儀なくされている、ということでしょうから」
「ええ。ウロボロスの封印はそう簡単には解けない筈。それが解けたということは、少なくとも昨晩の時点では命の危機にあったということです。しかし、参りましたね。早く終わらせて場所を変えないと、余計な輩まで出てきそうです」
「じゃあ早くドロシーさんのところに行きましょう」
「……というか、お二人は何故話しながら拙者に向かって石を投げるのでござるか」
「「なんとなく」」
「もうこんなパーティー嫌でござるーっ」

泣きながら走り出した案山子丸を、笑いながら追い回す二人を、シィルのシャツで鼻をかみながら眺めていたグリグリは、とりあえず腹が減ったのでもっと栄えた町に行って、ヤマト名物「茶屋で団子の山の早食い競争をしていたら喉に詰まらせてアップップ可愛い看板娘が慌てて持ってきたお茶をひっくり返してアッチッチで不良が暴れてドタンバタンすかさず登場オレ☆ヒーロー」な展開をやってみたいなぁ、などと考えているのだった。



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