昼下がりのドロシー
□第六話
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「俺様奥義その一、炎の刃!」
二、三度縦横に剣を振り回し、幾つかの炎の刃を発生させた。
葉っぱお化けは目をぐるんと一巡りさせると、水球を正面に集めて水の膜を作り上げる。衝突した炎の刃は、煙を上げながら消滅した。
「くっそ! その二、炎の竜巻!」
剣を振り回して炎の竜巻を発生させる。これだったら簡単には消せまい。
葉っぱお化けは一瞬考え込むように迫り来る炎の竜巻を見下ろしていたが、やがて目玉を超速回転させて、水の膜を水の竜巻へと変化させた。何と言うか……怖いよ、目玉が。
空中で発生した水の竜巻は、上から覆い被さるようにして炎の竜巻を押し潰していく。
やがて根元まで水に呑まれ、炎の竜巻は消え失せた。
「くっそー! かくなる上は、秘奥義!」
俺は剣を納め、戦隊ヒーローよろしくポーズを決めながら葉っぱお化けに向かって飛び上がる。
「空中踵落とし!」
もらった。
と思ったのも束の間、葉っぱお化けはひらりと避けた。
「ぬなっ!?」
勢いのままに逆さまに落ちていく俺。マジかよ。ここまで生き延びておいて最後は自爆?
「納得できるか! せめててめぇは道連れだぁああ!」
魔剣を抜き払い、炎の刃を放つ。が、あっさりと水球に呑まれて消滅。
「くそたれ! バーカ! ハゲてしまえ!」
悔し紛れに喚きながら剣を振り回す。と、ちょうど出た炎の刃が地面に当たり、衝撃波が熱と共に跳ね返ってきた。
横に飛ばされ、先にあった木の枝に掴まる。
「ふっ。さすが俺……って、どわっ」
木の枝がみしみしと折れて垂れ下がり、見事地面に着地。十点満点。心臓はバクバクだけど、気にしない。
「……何を遊んでいるんだ」
真於が赤い瞳を呆れたように細めて呟く。
「遊んでねえ。俺は真面目だ」
「お前、水竜族じゃなかったんだな。何者だ」
いっそう警戒心を強めた目で見てこられ、冷や汗が頬を伝う。このままじゃ俺まで敵と思われそうだ。とりあえず説明はしないとまずいな。
「さっきも言ったが俺はドロシー。まあ、流れ者みたいなものだ。水竜族に助っ人を頼まれている」
まあ、嘘ではないよな。大方は。
「その実力でか。水竜族も自棄を起こしたな」
うわ。痛いところを突かれた。
「足手纏いはいらない。帰れ」
しかもバッサリ一刀両断。だいぶ傷つきます。
「い、言っとくけど俺、風の魔法も使えるんだからな!」
「ほぅ?」
疑わしそうに半目で見られ、俺は慌てて剣を葉っぱお化けに向かって掲げる。ええと、あの時グリグリが言ってたの何だっけ。
………。
………。
………。
……無理だ。思い出せない。適当でいっか。
「ぶ、ぶっ飛ばせ、ウィンドウズ!」
………。
………。
………。
……しまった! ウィンドウズは「風」じゃない。「窓」だ!
と、葉っぱの上の空間が奇妙に歪み、窓枠ごと窓が落ちてきた。
ずべしっ。
「「………」」
さすが葉っぱ。窓の重みにも耐えられず、葉っぱお化けは目玉を下に落下した。不意打ち万歳だな。そのまま突き出した木の枝などに串刺しにされ、身動きが取れないらしく、うにょうにょともがいている。
「えいっ」
掛け声と共に炎の刃を放つ。見えていないおかげで、水球は見当違いの場所でぷかぷか浮かぶばかり。炎の刃は見事に葉っぱお化けを真っ二つにした。
「どうだ。ちゃんと倒せただろ」
切れ目の部分から燃え上がった葉っぱお化けから目を逸らし、真於を見下ろす。
「風の魔法は?」
「倒せたんだからいいだろうが。細かいこと気にすんな!」
「風の魔法は?」
「………」
「………」
「……あ、おい」
血を流し過ぎたのか、真於がへなへなとその場に倒れてしまった。辺りを見回すが、葉っぱお化けの残骸が縮れて炭化していっているだけで、誰もいない。ちらり、と真於を見下ろし、ため息を吐く。
「何でこうなるかなぁ」
元々真於が倒れたのは俺を庇って傷を負ったからだ。放っておくわけにもいかないだろう。
月影の下、俺は真於を背負い、冷気の籠る洞窟へと引き返していった。