昼下がりのドロシー

□第五話
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「大変だー!」
「「「「え?」」」」

慌てて砂浜に駆け戻った時には、ジークはハーレムを形成し、案山子丸は砂に埋められ、ライアンはアイスを食べながら迷子で泣き、グリグリはタコと格闘していた。

この数時間の間になにがあったんだ?

……じゃなくて!

「俺、女になっちゃった」
「な、なに!? 相手はどこのどいつだ! オレが殺……」
「ちっげーわ! んな意味じゃねえ!」

スパコーン!

俺様はハリセンツッコミを習得した!

「……はっ! あまりの事態に思考回路がグリグリ並みに」

慌ててハリセンを放り捨てる。

「つーか、マジで見ろよこの格好、ありえねえだろ?」
「よく似合ってますよ?」
「わー、ありが……って、だからそうじゃなくて!」
「何が問題なんだ?」
「何がって、んなことも分からないのかよ!?」

思わず声を荒げると、皆は困惑したようにこちらを見つめてきた。……どういうことだ。俺がおかしいのか?

「俺……男だったろ?」

祈るような気持ちで問い掛けると、皆は顔を見合わせる。

「ドロシー殿は最初から女性でござった」

偶々目が合った案山子丸は、遠慮がちにそう断言した。グリグリ、ライアンにも目を向けるが、二人とも気まずそうに頷く。

「な……んだよ、それ」

俺の記憶が間違っているのか? だが、俺の記憶なんて最初から……、

そう。最初から、朧気だった。

「ドロシー、何を考えているかは分かりませんが」

ジークに触れられた肩がびくんと跳ねる。

「あなたがおかしいと感じたのなら、それはやはりおかしいのです。おかしいと感じたことを、忘れないでください。それはきっと、真実につながっていますから」
「……どういう意味だよ」
「さあ?」

ジークはにっこり笑うと、サングラスを外していつもの眼鏡に戻した。

「では、とりあえず港に行きましょうか」
「は?」
「黒い獣のようなものが港の方に走っていったという証言が幾つか取れましたので、まず間違いないでしょう」
「へ?」
「ではレッツらゴー」

ジークに手を引かれながら、先程までの俺の聞き込み調査はめさんこリゾートしてたジークにも負けるのかと、ちょっと切ない気分だった。



「……で、何コレ」

港に着くと、沢山の船がつけられていたが、その船はことごとく幽霊船のようにズタボロである。

「あ、かのじょ、こんなトコにいたんだ〜」
「げ、ナンパ男ABC!」

聞き覚えのある声に振り返れば、先程バーで会った三バカがいた。

「さっきはいきなり走ってっちゃったからびっくりポンだったよ〜」
「なぁに? 船に乗りたかったの〜?」
「残念だねぃ。船はリヴァイアさんに襲われてみんな沈ボッツさ」
「リヴァイアさん?」

リヴァイアさんって……リヴァイアサンじゃないのかよ。

「おうともさ!」
「リヴァイアさんはぁ、海の向こうから来る変態さんなんだよ〜」
「ナントカっていう、東の国で暴れてる魔族の手下なんだよ〜」
「でも全然怖くないんだよね〜」
「変態だもんね〜」
「変態で大変だ! ……ぷぷっ」

ドベキボキッ。

……いや、言っとくけど俺じゃないから。ナンパ男ABだから。

「まぁ、そんなことはどうでもいいじゃん」
「しょうがないものはしょうがないもん」
「だから、かのじょ〜、一緒に遊ぼう?」
「れっつびぎん、とぅめいくらーぶ!」
「しぃちゃん、うざーい」
「しぃちゃん、きもーい」

え、マジに名前、Cだったんだ。

「待て! 娘が欲しくばオレを倒してからにしボファ!??」
「誰が娘だ!」
「それはそうと……そこのナンパ男ABCさん、少しお伺いしても構いませんか」
「え〜、めんどくさぁい」
「後でいいじゃん」

ナンパ男AB、意外と強者だな。ジークにそんな態度を取れるとは。

「その代わりに一日ドロシーを貸し出しますから」
「「「「はぁッ!?」」」」「それならいいよ〜」
「今日はもう遅いから明日、約束ね〜」
「コラてめぇらちょっと待て! 俺は了承してない!」
「ドロシー」

ジークがにっこり笑って耳元に囁いてくる。

「アリ村での貸し、まだ返してもらってませんでしたよねぇ?」

そういやそんな話もあったな。さぁっと血の気が引いていくのを感じる。

「別にいいんですよ? 私は最初の約束通り実験に協力していただいても。そうですねぇ、耐熱スーツを開発したのでマグマの中にでも飛び込んでもらいましょうか。或いはカカシマル1号と戦ってみます? 行動心理領域の実験でもいいですよ。人間の極限状態においての行動が気になって……」
「一日貸し出しですねハイ分かりました是非とも行かせてください」
「やった〜」
「よろしく〜」

ABに左右から抱き着かれながら、明日の苦労を思って肩を落とした。
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