昼下がりのドロシー
□第四話
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「バカだな、本当に」
あいつの声がして薄く目を開くと、いつもの、真っ暗でいて視界ははっきりしている、あの奇妙な空間に俺はいた。
「さっさと……けよ」
呟いたあいつの声は、低すぎてよく聞こえない。
「何?」
完全に覚醒し、振り返ってみれば、あいつは驚いたように目を見開く。
「起きていたのか」
探るように俺を見つめ続けるあいつにたじろぎながら、再び「だから何なんだよ」と問えば、あいつは失望と安堵がないまぜになったようなため息をつく。
「気付かなかったか」
「おい、無視してんなよ」
独り言のように呟くあいつに苛つきながら文句を言えば、あいつはいつもの人を食ったような笑みになり、こちらに歩み寄ってくる。
「な、なんだよ」
あいつは鼻で笑い、俺の肩を突き飛ばした。
「毎度毎度、ひとのプライベートルームに入ってくんじゃねえよ。帰れ」
よろめいて後ろに引いた足の下に地面は無い。
「ってオィイイイイ!! またかよチクショオオオ! 野郎てめッ次に会ったらぶん殴るぅうううう!」
二度目の落下の最中、俺の声は闇の中に空しく吸い込まれていった。
「ばーか!」
ドバキッ。
あれ? あの距離で何で当たって……って、え。
気付けば目の前に、俯き震える鼈甲色の後頭部があった。
「ドロちゃん……いきなりそれはねぇよ」
ああ、成る程。何故かは知らないが、またもやぶっ倒れてグリグリに背負われてるわけね。
「起きて早々なんですが」
と、前方にいたジークが眼鏡を直しながらこちらに向き直る。
「アレ、どうにかしてもらえますか」
ジークの指す方向を見れば、毒々しい赤紫の花をつけた巨大植物が、案山子丸とライアンに触手を打ち付けようとしている。
「私は水属性なので、アレにはあまり効きませんし、触手のせいで案山子丸は本体に近付けませんので」
「ライアンと……カイは?」
「カイは帰りました。ライアンはほら、あの通り」
と、言われて目を戻してみれば、何故かライアンはよろよろとこちらに飛んできた。
ぼんっ。
人型に戻るなりライアンは仰向けに倒れ、青い顔でゼエハアいっている。
「ブレスの吐きすぎで酸欠になってます」
……うん、使えねえ。
「なあ、オレはオレは?」
「仕方ねえな」
「え、無視? ちょっとドロちゃんさん?」
「んじゃ、行ってくるわ」
「オレのことは聞かないの? 『みんながダメならあの天才魔道士グリグリ様に頼めばいいんじゃない?』って」
「グリグリ」
「あ、やっぱり? ようやくオレの出番?」
「下ろせ」
「…………」
隅っこで「の」の字を書き出したグリグリは無視して、俺は前に出る。
「ドロシー殿! もう体調は大丈夫でござるか!」
「あたぼうよ!」
「ど、ドロシー殿のノリが変でござる……」
「何か言ったか?」
「いえ、別に……」
案山子丸を黙らせて巨大植物に向かい、剣を突きつける。
「俺のストレス発散に付き合え!」
そしてお馴染み炎の竜巻。巨大植物は十秒で木炭と化した。