空色の本

□桜舞い散るこの季節
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何となく入った学校で、何となく三年間を過ごし、何となく卒業した。

四月になって高校に入るまでの宙ぶらりんの空白期間、そのまま何となくで過ごしていた私の元に入ってきた「今日会おう」という電話から、何となくと何となくの間に、そうじゃない何かが挟み込まれた。

今日は、そんな何かの日。

私はカラオケやゲーム全般、というか電子機器が苦手だ。だから、ケータイにも滅多に触らず、乗り物にもあまり乗らないようにしている。

物を持つことにもあまり興味が無い。服は母が勝手に買ってくるし、それ以外にも貰いものが多いので、自分で買おうとはどうにも思えないからだ。

そんな訳で、行き先もやることも随分と限られる。公園、学校、自宅、神社などなど。基本的に行き先を決めずに歩き出すことが多いのだが、今日の行き先は何となく予想がついていた。

やっぱりなあ、と口の中だけで呟きながら頭上を見やる。

みんなは薄紅色だと言うけれど、白い、雪のように真っ白な花弁が、フケみたいにちらほら舞っていた。隣にいる彼女にこんなことを言ったら、きっと怒るだろう。

彼女はどちらかというと整った顔をしていて、さらさらと流れるような黒髪だ。友人曰く、つい触りたくなるのだとか。同じクラスだった皆からも、彼女の在不在どちらの場合にも、羨ましいだの自分なんかストパーをかけて髪傷みまくりだのと、なぜか私が文句を言われていた。基本的に人間との直接的な接触が嫌いな私からすれば、そうした感情は湧き起こってこないのだけれど。

彼女の魅力は欠点と同様に様々だと思うけれど、私が好きなのは、目だ。

彼女の大きな黒い目は揺るがない。自他に対し、一切の迷いも許さない。とにかく、射抜き、貫き、打ちのめす。前ばかり見ている。

私とは真逆のその目が、大好きで、大嫌いだ。
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