空色の本
□サイン
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「よ、テツ。元気してたか」
振り返るとトモが、相変わらずの悪ガキ風の、でも気持ちの良い笑顔を俺に向けていた。
「トモ、お前」
思わず叫んでしまうが、その後が続かない。何を言えばいいのか、言いたいことは山ほどあったはずなのに、言えなかった。こんなとき、無性に自分自身が腹立たしく思える。
「俺のことは置いとけよ。俺の方が先に声かけたんだから、優先権は俺にある」
「優先権って何だよ」
「とりあえず、公園行こうぜ。あの公園、まだあるだろ」
トモが着ているのは間違いなく、うちの学校の学ランだが、俺は学校でトモに会った覚えは無い。たまたま今まで会わなかったのか、転校してきたのか。
町は妙に静かで人気が無い。空に浮かぶ雲さえ全く動いていないような気がする。ただ、風だけが、昔を思わせる懐かしい匂いを孕んだまま、髪や肌を撫ぜていく。
以前はよく、トモや他の奴らと一緒に公園で野球をして遊んでいた。野球をしなくなったのはいつ頃からだったろう。思い出せない。
かつて毎日並んで歩いていた通学路を抜けると、公園が見えてきた。
「うわっ、マジ懐かしい。俺の公園!」
トモは嬉しそうに声を上げて駆けていき、車両進入防止の柵を叩いて振り返る。
「な?」
何故か誇らしげに胸を張るトモを見て、どういうわけか目頭が熱くなった。
「俺に振られても困る」
誤魔化すように苦笑すると、トモはそんな俺をまじまじと見つめ、賢しげに唸る。
「何だよ」
居心地の悪さにたじろぎながら問えば、トモは肩を竦めて笑う。
「いや、お前ガタイ良くなったなって思ってさ。でも性格は相変わらずだな。そんなんじゃ一生結婚できねーぞ」
「気が早すぎ」
トモも本当に相変わらずだ。底抜けに明るい笑顔も、時折混じる毒舌も、昔と何一つ変わらない。
地元少年野球チームのエースにして、運動神経抜群、成績ぼちぼち、自分勝手が玉に瑕のトモは、たいていの奴に好かれていた。対して俺は頑固なせいもあり、いつも誰かしらとケンカしていた気がする。
一番参ったのは、あの時だ。