昼下がりのドロシー
□第七話
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頭痛い。頭痛い。ガンガンする。
筵の上に突っ伏し、組んだ腕の上に顎を乗せ、据わった目で虚空を見つめる俺。
「ドロちゃん大丈夫〜?」
「初めてなのに調子乗って酒樽一気飲みとかするからだよ〜」
両隣にしゃがみ、心配した目で顔を覗き込んでくる紅と、呆れ顔でため息を吐く蒼。
そう、リヴァイアさん一行を撃退した後、一気に歓迎ムードになった水竜族の皆々様が「宴会だー!」とか言い出し、あれよあれよという間に気付けばみんなでどんちゃん騒ぎ。お前らさっきまでのシリアスムードはどこいった?と突っ込む間も無く、あれよあれよという間に気付けば俺も超ノリノリでばか騒ぎに混じっていたのだった。
「つーか、本当調子乗り過ぎだっての。どうすんだよ、この惨状」
責めるように毒吐いたのは、出入口に突っ立って鼻を摘んでいる神流。お子様な彼は宴会には参加せず、自室で寝ていたらしい。
「うっさいクソガキ。これはアレだ、大人の事情って奴なんだ」
「お前だってガキじゃん。つかこっち向くな口開くなアルコールくせー」
「アルコール臭いのはこの部屋全体だっての」
「……そうだな」
神流が俺の意見に珍しく首肯するくらいには、この部屋というか、広間はアルコール臭い。むしろ、壁や床、空気、そこここで屍と化している水竜族たちの体に染み着いてしまっている。
「まあ、とりあえず」
アルコールを抜いて、二度寝したいかな。
呟いた俺に、彼らは三者三様に息を吐いた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「とーちゃーっく!」
アヒルの船首から断崖へと飛び移りながら、グリグリは叫んだ。
「阿呆が!」
その後頭部にオールがめり込む。
「大声出すんやない! 敵に見つかったらどうすんじゃああ!?」
グリグリに続いて船から降りてきたライアンはオールを肩に担ぐと、鼻息荒く怒鳴った。ドロシーと離れて以来、ストレスが溜まっているのか、始終この調子である。カルシウムを探してあげた方がいいかもしれない。
「貴方も十分大声出してますけどね」
「うはははは、全くそうだねぃ」
アヒル船を魔法陣で恐らく実家に返しながら言ったジークに相槌を打つと、シィルは後ろで踞っている案山子丸を振り返る。
「大丈夫かい、案山子くん」
「だ、駄目でござる……」
どうやら、ばっちり船酔いしてしまったようだ。
「ヤマトの国に来るのは私も初めてなのであまり詳しくはありませんが、カザカミの位置と潮の流れから考えて、ここは茶漉領の南西部に当たる土地、即ち、茶渋領か梅茶領かと思われますが、いかがですか」
「うぷ……そ、その通りでござる。たぶん梅茶領かと……おえぇ」
「なるほど。とすると、ここは桃太郎湾ですか」
「特産のキビダンゴ、じいさんへの土産に買っていこうかねぃ」
「むかし〜むかし〜うらしまは〜」
「ちゃうねんて」
色々に部分で収拾が着かなくなった皆の元に、どこかから戻ってきたグリグリが「おーい」と手を振る。
「な、なんじゃ」
その背に乗っているものを見て、ライアンの顔が青ざめた。
「カルシウム見っけた! ライアンライアン、コレ食うといいよ!」
グリグリの背の上でカタカタと手足を揺らしているのは……。
「びえーっ ガイコツぅー!」
「待て! 待つんだライアン!」
グリグリは一目散に逃げ出したライアンに向けてガイコツの手を掴み、待ったをかけるように伸ばさせながら後を追う。
「やれやれ」
二人の背が松林の向こうに消えていくのを見て、ジークは深々とため息を吐いた。
「行きますよ、下僕四号」
「え、下僕って俺のこと? てか四号って……」
「そこの役立たずの三号を連れてきてください」
「あ、やっぱりそういうことなんだ」
当然のように歩き出したジークに、シィルは案山子丸を引きずりながらその背を追った。