昼下がりのドロシー

□第五話
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青い海。白い砂浜。水着ギャル……え、水着ギャルは世界観的にいいのか?

何はともあれ。

「海だぁーッ!」

バカの免許皆伝、ミスターバカのグリグリが飛び出していった。

「待ちなさい」

その後頭部にジークが懐から出したロケットパンチがヒットする。っていうか、どこから出したんだ、そんなもの。

「な、何すんだよっ」

涙目で振り返るグリグリに、俺とジークは顔を見合わせてため息を吐いた。

「俺たちはマジノスケさん殺しの犯人を探しに来たんだ。遊んでる暇なんてねーだろ」
「海に入るのは水着に着替えて準備体操をしてからにしてください」
「ってオイ、そこかよ」

つーか、気付けばライアンは浮き輪を借りにいってるし、案山子丸は案山子丸で逆ナンされて逃げている。ジークはまたもやどこから出したのか、パラソルとサングラスを掛けて寝る気満々だし、グリグリはジークに渡された海パンに一瞬で着替えてまた海に向かって駆け出している。

……もう嫌だ、こんな奴ら。

俺は一人で情報収集することにした。



Q.黒い獣か魔族、水晶玉を持ったよそ者を見ませんでしたか? 或いは、ここ最近で、何か変わったことはありませんか?

近所の奥さんの回答
「変わったこと? ええ、ええ、あったわ。見てよこのツヤツヤのお肌。ちょっと前までは老けて見られるくらいに張りが無かったのに、このマディー&パピー社のパックを使うようになってからはこの通り! 他のところとはぜんっぜん違うんだから!」

近所のおっさんの回答
「変わったこと……? なぁんにも無いよ。あたしゃ職無しで家内にも逃げられたまんまだ。酒も煙草も買えやしない。いつまでこんな暮らしが続くんだろうねぇ」

近所のぼくちゃんの回答
「わーっ、魔族が来た! 食らえ、海水水鉄砲! ……うわ、魔族が怒った。逃げ……いでっ! びぇえええんっ」

     ……etc etc



「あーもう、やってらんねってんだよ!」

近所のバーにて。グラスをカウンターに叩きつけながらクダを巻く、言わずと知れた俺様何様ドロシー様。もちろん、飲んでいるのはノンアルコールのイチゴミルクです。

「オヤジ、もう一杯!」

ガーッと飲み干して、酔っ払いリーマンがおでん屋のオッサンにやる如く、イブシ銀なバーテンダーに空いたグラスを突きつける。

「かしこまりました」

文句一つ言わずにおかわりを用意してくれるあなたは神様だ!

「かーのじょ、荒れてるねぃ! どうしたの、彼氏とケンカ?」

ぐいぐい飲んでいると、後ろの方から声がした。けっ、こんな真っ昼間からナンパかよ。……ナンパに時間は関係無いか。

「ねえねえ無視しないでよ〜。俺たちとお話しよ?」

うぜぇ、誰だよ「かのじょ」。早く返事して追っ払えよ。

「ねぇ、かのじょってばぁ」

と、俺の肩に誰かの手の感触。振り返れば、三人のチャラ男。辺りを見回すが、他に客はいない。

……「かのじょ」って、俺か!??

「えーと、もしかして俺に言ってます?」

まあ、万が一ということもあるので一応確認する優しい俺。

「他に誰もいないでしょ〜」
「俺は男だ」
「またまたそんな〜。どう見たって女の子じゃ〜ん。なあ?」

一斉に頷く男たち。いやいやいや、そんなに俺ってば男に見えない?

「男ですよね?」

不安になったのでイブシ銀バーテンダーさんに聞いてみる。

「憚りながら、女性で間違いないかと……」
「ぅええ?」

そんなに? そんなにですか?

バーの片隅にちょうど、等身大の鏡が立て掛けられていたので、立ち上がって見に行く。

銀杏色の外跳ねボブに、少しつり目がちなアーモンド型の瞳は琥珀。不機嫌そうに口元をきっと引き結んだ、白いシャツに空色ワンピの少女。

「……これは誰だ」

呟くと、鏡の中の少女も苦々しげに口を動かしていた。
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