昼下がりのドロシー

□第三話
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えー、唐突ですが皆様、俺はいま空を飛んでいます。あ、もちろん俺自身がぱたぱた羽ばたいているわけじゃなく、ライアンの上に乗っているだけなんだけど。何ていうか、前回の時はそんなに長い間飛ばずに墜落しちゃったからあまり気にならなかったけど……正直言って、かなり寒いです。

「おいライアン、もう少し速度か高度下げられないのかよ! 俺鼻水垂れそうなんだけど。手掴まってなきゃいけないから鼻かめないんだけど」
「きゅ?」

風切り音で聞こえないのか、ライアンは首を傾げて聞き返してくる。

「てかお前、竜型の時は喋れないんだな……」
「きゅう」

俺の呟きに、ライアンは肯定を示す。いや、何かおかしくない? 絶対さっきのが声大きかったんだけど。

「お前、まさかわざとやってるわけじゃねぇよな!」

精一杯怒鳴ってやると、ライアンはまた「きゅ?」と返してきやがった。

「いや、なんかもういいわ……」

ため息を吐き、強い風に当てられ横走りに涙が飛ぶのをそのままに、下方を見下ろす。まだ、着かないらしい。じゃあ、着くまでの間に、こうなった理由でもお話しますか。



実は「魔剣ウロボロスの持ち手」イコール「魔王様」であるということが判明して、魔剣を一応魔族の一員なライアンに押し付けようとするも「だから持ち手の交替は持ち手が死んだ時だけですって」とのジークの一言に玉砕、ならばと投げ捨てようとすれば「ウロボロスは持ち手と一定距離離れると勝手に持ち手の元に飛んでいきますよ?」と言われ、さらに「あ、ちなみに折ろうとしても無駄ですよ。先々代の魔王が実験と称し、溶岩の中に落としたり、ギガントのハンマーによる渾身の一撃を受けてみたりと色々やっていますが、全く歯こぼれしませんでしたから」と先手を打たれ、魔剣を手放すことを諦めた俺は、ぶっちゃけ考えることが面倒臭くなり、この問題を一時棚上げすることにした。

だが、グリグリは「じゃあ、魔王つまりドロちゃんをやっつければ英雄だな!」とか言って喧嘩を売ってくるし、案山子丸は「魔王がドロシー殿ということはドロシー殿を殺さなければならないが、ドロシー殿は魔王を討ち果たしたという。その恩義をどのように報いれば……」などと部屋の壁に頭を打ち付けながら悶々としているし、ジークは笑いながらひとを追い詰めるようなことばかり言ってくるし。

嫌になった俺は「先にアリ村に情報収集に行ってくる。お前らは後からゆっくり来るんだな!」と言い捨て、ぼけっとしていたライアンの首根っこを掴んで宿を飛び出したというわけだ。いや、まあどうせ全員が一緒に来るってのは無理だったろうし。何せ、グリグリはアリ村では殺人犯だと思われているらしいし。

まあ、そんなこんなでこうしているわけだ。



「きゅう」

ライアンの声に現実に引き戻されてみれば、前方に懐かしい光景が見えた。森に隠されるように佇む、小さな集落。いや、実際あの時も空から見たから本当に懐かしい感じがするんですよ、冗談じゃなく。

「よし、じゃあ手前の森に降りるぞ。竜に乗って降り立ったんじゃ魔族だと思われるからな」

いや、魔族らしいけどね。

「きゅ」

自嘲する俺に気付かぬまま、下降するためライアンは翼を傾けた。
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