黒色の本
□archetype epitaph
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一、二、三、四……。
いつもの急勾配の石段に足を踏み出し、一歩ずつ足を運びながら、心の中でカウントする。
十三、十四、十五、十六……。
それは、家に帰るための儀式。階段の切れ目から、次第に広がっていく空、白い光線を放つ太陽が顔を覗かせる。
二十八、二十九、三十。
息を吐き、顔を上げた僕は、呆然と立ち尽くした。
いつもの町並み、いつもの風景が広がっているはずのその場所には。
焼け焦げ、煙を噴き出す家屋の残骸。
ひび割れ、歪んだアスファルト。
炎を映し、赤く染まった空。
どうしようもなく「非現実的」な現実が存在していた。し続けていた。