黒色の本

□chain
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●朱藤(母)の独白●

先日、息子が人を殺しました。

母親として「あの子がそんなことをするなんて」とやりきれない思いがある反面、殺された少年に対し「当然の報いだ」とも思います。

あの子が殺した少年はあの子の同級生で、杉野君と言います。昔からずっとあの子をいじめ、ゆすり、たかってきました。私たち母子はいつもそのことに苦しみ、だけど耐えるしかありませんでした。

小学生の頃、あの子は、何度も「もう死にたい」と言っていました。或る時は泣きながら、また或る時は諦めたように笑いながら。私は何度か転校を勧めましたが、その度に「できない」と、「そんなことをしたら殺される」と呟いていました。だけど最近では私にすら何も話さず、泣きも笑いもしない、まるで人形のようになっていました。

あの子の体はいつもぼろぼろでした。目に付くところにはほとんど何もありませんが、制服を脱ぐと、そこら中に切り傷や痣が作られていました。私には話してくれないので詳しいことは分かりませんでしたが、犯人はあの死んだ彼だということはすぐに分かりました。いつも、そうでしたから。

正直、殺したいほど憎かった。もし、あの子が殺さなければ私が殺していたかもしれません。

あの日、あの事件の前日、あの子の首にはくっきりと十本の指の跡が付いていました。私は泣きながら問いただしました。でもあの子はいつもと同じ。何も語らず、無表情に食事と入浴を済ませ、寝るだけ。だから、まさかあの子が杉野君を殺そうと考えていたなんて、思いもしませんでした。
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