黒色の本
□BIRTH
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翌朝、僕は母さんの慟哭で目を覚ます。
「母さん? どうしたの」
階段を駆け下り、リビングを覗くと、テーブルに突っ伏して泣いている母さんの姿が目に入った。
その手元には広げられた新聞。社会面に「通り魔」の見出しがあり、あの男の写真が載っている。
僕はテーブルに歩み寄り、新聞の記事を覗き込んだ。
「ずいぶん近所だね。この事件がどうかしたの?」
顔も上げずに母さんは泣き叫び続ける。僕はそんな母さんの肩に手を置き身を屈めた。
「大丈夫だよ、母さん。ほら、犯人はもう捕まったって書いてあるじゃないか。何も心配はないよ。……それとも」
母さんはこの問いに、何と答えるだろう。僕は不安と期待の入り混じった気持ちで震える母さんの背を見つめた。
「この被害者の男の人が知り合いだったとか?」
母さんはただただ泣き続ける。まるで、僕なんかいないみたいに。
「ねえ」
涙が、零れた。
「僕の声、聞こえてる?」
作っていた笑顔が壊れ、
「お願いだから、何か言ってよ」
僕も、泣き出す。