銀魔剣
□8【風の声とその姿】
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8【風の声とその姿】
[Outside]
「切りがないっ!!」
次々と向かってくる雀の群れを、木刀で掠めるように追い払いながら、公希が何回目か分からない愚痴を叫んだ。
それにうんざりしたような溜め息だけを返す由宇。
「……切りがないっ!!」
…また言った。
「……分かりましたから!いいかげん少しは集中して下さいよ!!」
始めはやんわりと(絶えなく動きながら)公希の一言一言に答えを返していた由宇だったが、思ったよりもしつこい雀たちにうんざりしてか、はたまた公希の呑気さが気に触ったのか、絶えず浮かべていた微笑はなくなっていた。
…おそらく原因は両方だろうが。
「仕方ねぇだろ。ホントに切りがなくてなんか面倒臭くなってきたんだよ!」
前からだけでなく、既に周りを全て囲まれていた。
お互いに背を合わせ、背後だけには気を使わずに竹刀を振るう。
「面倒臭いって……始めに向かって行ったのは貴方でしょうが!!」
そう言って体制を低く構え、大きく翼を広げた瞬間の、翼の羽先を狙い、突きを繰り出す。
「そうだけど、こうちまちま向かって来られると力の加減が難しいっつーか、一気に張り倒したくなるっつーかっ!」
自ら手を出すとたたき落としてしまいそうで、公希は体当たりで向かってくる雀を全て一度刀身で受け止め、そのまま押しやるようにそれを振り払う。
「それなら集中して片付けた方が何事も早く終わりますよ!」
ぐたぐたと愚痴を零す余裕があるのなら、その分をやる気に使えと暗に説教を垂れる。
「…俺って、集中してるときほど、何かしら発散しながらじゃないと成果が出ないんだよな」
足元を狙って迫る雀を、スニーカーの裏で受けながらぼやいた公希は、勢いよく脚を蹴り上げた。
チチチー――ッ!!と一際高い悲鳴のような鳴き声を上げる雀に、由宇はぎょっとした顔を向ける。
「なっ…!ちょっと公希さん!?殺したりなんかしないで下さいよっ!!」
「殺さねーよ!ほら、見ろ!まだ飛べてるって」
蹴り上げられた雀は、孤を描いて遠くへと飛ばされ、地面に激突するかというぎりぎりのところで、再び翼を羽ばたかせ浮上した。
ほっと息を吐いた由宇に構わず、別の雀が視界の裏から由宇に迫る。
「早瀬っ、右!」
「!!」
利き腕とは逆の方向から迫られ、公希の声に導かれ咄嗟に振り上げた竹刀は、宙を切った。
「っ…!!」
目で捉えた雀はもう、竹刀では防ぎきれないほど近く……眼前に在った。