紅色舞姫
□第一章・捌
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「……寒い」
誰もいない山道で、漆姫は一人ぽつりと呟いた。
真冬の最北端は一面雪で埋め尽くされ、獣道が申し訳程度に跡を残している。
「寒いけど……寒いって言ったらもっと寒くなりそうだなぁ……」
外套の襟を合わせながら漆姫は小さく身を震わせた、真っ白な雪の中に真っ黒な外套は非常に目立つのだが特に見る者もいないので本人は全く気にしていない。
しばらくしゃりしゃりと雪を踏みながら歩いていた漆姫だが、ふと道の途中で足を止めた。
「分かれ道、よね?何でこんなところに……?」
一見何もないように見えるのだが、所々周囲の枝が折られたのではなく切られているのをみるとやはり誰かが手を入れているのだろう。
「抜け道かな……何にしても調べた方が良いよね」
一つ頷いてもといた道を外れてその細い道に足を踏み込む、進んでいくうちに道も徐々に広く、枝の切断面も新しいものが増えていく。
やはり何かある、と眉をひそめたとき、不意に視界が開けた。
「これ、は……」
木々に覆われた広場の一面に立てられた棒きれ、中には古い物もあるが大半はまだ新しい物で、明らかに異様な雰囲気を醸し出している。
「もしかして、これって……!」
まさか、と漆姫が息を飲んだ時だった。
「う、うわあああっ!!」
「っ!?」
振り返りざまに降って来た棒を避けた、距離をとって周囲を確認すると農民風の男が二人、それぞれ棒を構えて漆姫を睨んでいた。
「化け物め!おら達の村から出ていくだ!!」
「なっ…!?違います!私は……!」
言いかけたところにもう一人の男が襲い掛かってくる、それを避けて漆姫は小さく唸った。
相手が相手なので下手に反撃は出来ない、かと言ってこちらの話を聞くような様子でもない。
「二人も止めるだ!!」
「え……」
どうしたものかと頭を悩ませていると突然、あらぬ方向から二人を目掛けて雪玉が飛んで来た。
驚いてそちらの方に向き直れば女の子が一人、巨大な槌を担いで仁王立ちしていた。
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