紅色舞姫
□第一章・伍
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「おー、梵おかえ、り」
さっきまで追いかけ回されていた事をすっかり忘れたのか、のほほんと縁側で寝そべっていた成実は政宗が担いでいる『それ』を認識するとビシリと音をたてて凍り付いた。
「あの、梵、俺の見間違いだと思うけど…それ、人間?」
「どっからどう見てもそうだろうが」
「あー…うん、やっぱりそうだよな」
うんうん、と頷くと成実はゆっくりと起き上がって、そのまま物凄い勢いで廊下を駆け抜けた。
「綱元っ!!ついに梵が犯罪に手ぇ出した!!」
「誤解だ!つーか『ついに』ってどういう事だっ!?」
わーっ!と叫びながら走り去る成実の背中に向かって怒鳴り付けてはみたものの止まる気配はない。
「一体何ですか成実、少し静かになさい」
「あれ!あーれーっ!!」
呆れ顔で自室から現れた綱元は成実に促されて見た先、もとい政宗が担いでいる少女を見た瞬間、一時完全に停止したが、すぐに笑顔を閃かせると政宗の空いている方の肩に手を乗せて、至極真面目に言った。
「殿、今なら間に合いますから、早く元の所に返してあげて来て下さい」
「拾い猫かよ?」
「猫じゃないから言っているんでしょう!よりによって妙齢の女性をかどわかすなんて…!」
「人聞きの悪い事言うんじゃねぇ、ちっとばかり付き合ってもらうだけだ」
「だったら担がずにフツーに連れてくりゃ良いじゃん、しかもナニ?両手縛ってさるぐつわって!?よく捕まらなかったな!?」
「こうでもしねぇと暴れるんだよ、コイツ」
現に涼しい顔の政宗の上で彼女は苦しそうに声をあげている。
「そりゃ暴れるっつーの!!完全なる人掠いじゃねぇの!!」
「まさか殿が政務のせいでここまで気を病んでいたとは…申し訳ありません、普段は決してこのような方ではないのですが……すぐに町までお送り致します、殿、下ろして差し上げて下さい」
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