紅色舞姫
□第一章・肆
1ページ/5ページ
「終わったーっ!!」
「Shut up!!」
スパーン!と勢いよく襖を開けて部屋にやって来た成実に振り向きもせず怒鳴り返し、政宗はひたすら筆を走らせていた。
「約十日にわたる軟禁生活がようやくっ…!俺今なら甲斐の若虎の気持ち分かるわ!やったぜ梵ーっ!!」
「うるせぇってんだろうが!!」
ついに堪えきれなくなったのか政宗はくわっとはしゃぎまくっている成実を睨み付け、ついでに持っていた紙の束でその頭をひっぱたいた。
「痛っ!?そこまで若虎と共感はできねーよ!独眼竜ともあろう者がもう少し物事の程度を見極めろよー」
「Ok成実、表に出ろ、久しぶりに手合わせといこうじゃねぇか…」
「あら?梵、目が据わってるよ?あれ、俺命の危機?」
じりじりと間合いを詰める政宗から逃れようと成実はパッと後ろに向き直ると脱兎の如く廊下を駆け抜けた。
「Wait!!逃がすと思うなよ!!」
その後をこれまた凄い勢いで政宗が追いかけて行く。
「全く…あの方は……」
「良いじゃないですか、元気なのは若い証拠ですし」
無人となった政宗の執務室の前で、小十郎は眉間を押さえ、綱元は笑顔で仕上がった書類を回収する。
「その顔で言うな……それより、止めなくて良かったのか?成実はともかく政宗様はまだ政務が残っている風だったが…」
「あぁ…そうですね……」
しばらく手元の紙料を見つめていた綱元はにっこりと、この上ない微笑みを見せた。
「殿には溜まっていた仕事と一緒に先の分の仕事も仕込んでいたんです、このくらい済んでいるなら少しくらい羽目を外しても大丈夫でしょう」
「……つくづく、やる事がえげつねぇな」
主に対して平気でこの仕打ちである、大した野郎だと感心するついでに何やら胃の辺りがムカついた気がする。
「すっかりあの尋ね人殿に懸想していらっしゃいますからね…こうでもしないと見付かるまで仕事しませんよ?」
「それもそうだが……はぁ…」
綱元の言い分に納得しつつも再度発生した胃の違和感に小十郎は深々とため息をついた。
.