紅色舞姫

□第一章・参
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「…それで」

重苦しい空気が室内に立ち込める、そしてその空気の発生源である小十郎は深々と眉間にしわを刻んだ。

「政務を放り出して城下ヘ行って、何か掴めたのですか?」

「いや、特には」

「ほう……」

鋭くなる小十郎の視線にかなりの居心地の悪さを感じて政宗はサッと目をそらせた。
小十郎の後ろの方で、直接顔を見てもいない成実が「ぎゃー」と小声で叫んでいる。

馬鹿野郎、直接説教を受けてるこっちの身にもなれ、と心の中で悪態をつきながら次々と浴びせられる小十郎の小言をやり過ごす。

「全く…もし御身に何かあったらどうするおつもりですか…」

「結果的に無事だったから良いだろ?」

途中で喧嘩はしてきたが。

「そういう問題ではありません!」

「影綱、気持ちはとてもよく分かりますがそのくらいにしておきなさい、肝心な尋ね人殿の話が出来ません」

『とてもよく』の部分を強調して綱元はにっこり笑う。

「ただでさえ熱心な殿が自ら城下へ行かれたことで時間が減っているんですから、『時は金なり』というでしょう?」

「…悪かった」

不本意ながら政宗は謝った、綱元は怖い、何しろ始終笑顔でこちらの後ろめたいところを的確に、しかも嫌味をまじえて咎められるのだから。
うっかり反抗なんかした日には彼の思い付く限りの方法で精神的な嫌がらせを受けるだろう。

「反省していただけたのなら構わないのですよ?…それで私の方で分かった事なのですが…」

そう言うと綱元は手にしていた紙に目を落とした。

「尋ね人殿が最初に現れたのは三ヶ月ほど前…夏の終わり頃ですね、もう分かっている事ですが小柄で細身…そうそう、あと読み書きも不自由なくできるそうです」

「賊退治のお節介野郎がでたのは半月くらい前だったか…同一人物だとしてもおかしくはないな……寧ろここまで条件が同じなら間違いないだろ」

「なーんか話聞く限りただ暴れたいだけの奴みたいだな、うちの兵に賊に片っ端から勝負挑んでる感じ?うわ、暑苦し」

「Hum…ただの猪突猛進野郎なら構わねぇがな、読み書きが出来るって事はそれなりの教育を受けてるって事か」

「間者、という可能性についても調べましたが…最近周辺国に特に不穏な動きは見られません」

各々の感想を聞きながら綱元はくしゃっと紙を丸めた。



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